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1980年代に拡大したビデオというメディアは、オタク文化の代表とも見なされるアニメの視聴経験をどのように変えていったのか。アニメオタクはビデオを利用することを通じて、どのような映像文化を形成し、そこにはいかなる社会的な意味があったのか。
1970年代後半から80年代のアニメブームと呼ばれる時期に焦点を当て、「ビデオジャーナル」「アニメージュ」「Animec」「アニメV」などの雑誌を読み込んで、アニメファンのビデオ利用によってアニメが個人の趣味として立ち現れるようになったプロセスを描き出す。
ビデオがアニメの保存や操作を可能にしたことでファンの交流を促して、「趣味としてのアニメ」の新たな流通経路を作り出し、それが個人の収集(コレクション)やレンタル市場の形成につながっていった。ファン・産業・技術が絡み合いながらアニメ独自の市場を形成した1980年代のうねりを照らし出し、ビデオが切り開いた映像経験の文化的なポテンシャルを明らかにする。
[出版社より]
著 者|永田大輔
出版社|青弓社
定 価|2,800円+税
判 型|A5判/並製
頁 数|280
ISBN|978-4-7872-3545-9
発 行|2024年09月
Contents
序 章 映像を趣味にする経験とビデオ技術
1 オタクとビデオの結び付き
2 アニメというファン領域
3 本書の分析資料
4 本書の構成
第1部 アニメを趣味にする条件とビデオ技術
第1章 ビデオのファン利用とオタクという主体
1 本書の問いをめぐる議論の配置
2 オタクとビデオの関連性について
3 ビデオを取り扱うことの意義づけ
4 ビデオをめぐるメディア論的視点
5 アニメという対象
第2章 ビデオにおける「教育の場」と「家庭普及」――一九六〇年代後半―七〇年代の業界紙「ビデオジャーナル」にみる普及戦略
1 ビデオ受容をめぐる諸議論
2 資料の特性
3 教育の場とビデオ
4 「教育」と「家庭」の間
5 結論
第3章 「テレビを保存する」ことと読者共同体の形成――アニメ雑誌「アニメージュ」を事例として
1 「テレビを保存するという実践の成立」と「新たなアニメファン」
2 「テレビを保存する」ことの前提条件
3 「テレビを録る」ということを軸とした読者共同体の形成
第2部 アニメが「独自の趣味」になる過程とビデオ技術
第4章 アニメ雑誌における「第三のメディア」としてのOVA――一九八〇年代のアニメ産業の構造的条件に着目して
1 本章で取り扱う分析資料
2 OVAをめぐる構造的条件
3 「第一のメディア」と「第二のメディア」
4 「第三のメディア」としてのOVA
5 結論
第5章 コンテンツ消費における「オタク文化の独自性」の形成過程――一九八〇年代のビデオテープのコマ送り・編集をめぐる語りから
1 「オタク文化の独自性」をめぐる先行研究・分析視角・分析対象
2 ビデオデッキの普及環境に関して
3 コマ送りが可能とする視聴実践
4 形成される相互循環
5 結論
第6章 アニメの制度化のインフラとしてのアニメ制作者の形成――一九七〇―八〇年代の労働規範に着目して
1 アニメーターの職務概要
2 分析枠組みと資料の分析上の位置づけ
3 アニメブーム期の労働を読み解く視点
4 制作者の労働規範の変容
5 結論
第3部 ビデオを通じて再定式化される「オタク」経験とアニメ文化
第7章 ビデオをめぐるメディア経験の多層性――「コレクション」とオタクのカテゴリー運用をめぐって
1 「オタクの代表」の宮﨑勤
2 一九八九年時点のビデオの社会的配置と有徴性
3 「真のオタク」ではない宮﨑勤
4 変容するコレクションの意味論
5 結論――オタクが語られだす論理
第8章 ビデオ受容空間の経験史――「趣味の地理学」と一九八〇年代のアニメファンの経験の関係から
1 先行研究
2 コンテンツ受容空間と経験史
3 有徴な空間としてのビデオ店
4 レンタルビデオ店経験の両義性
5 ビデオ店利用の個別性
終 章 映像視聴の文化社会学に向けて
1 ビデオが開いた映像視聴経験とアニメファン
2 メディア文化にビデオ技術がもたらしたもの
3 コレクションのメディア論
4 子どもの民主主義とオタク文化――「共同視聴」の文化社会学に向けて
引用・参考文献
あとがき
Author
永田 大輔 Daisuke Nagata
1985年、栃木県生まれ。明星大学など非常勤講師。専攻はメディア論、文化社会学、映像文化論、労働社会学。共編著に『アニメと場所の社会学――文化産業における共通文化の可能性』『アニメの社会学――アニメファンとアニメ制作者たちの文化産業論』『消費と労働の文化社会学――やりがい搾取以降の「批判」を考える』(いずれもナカニシヤ出版)、共著に『産業変動の労働社会学――アニメーターの経験史』(晃洋書房)、『ビデオのメディア論』(青弓社)、論文に「「二次創作」はいかなる意味で「消費」であるのか――大塚英志の消費論を中心に」(「日本研究」第65号)など。
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