第2次世界大戦中、ナチスの〈ホロコースト〉からユダヤ難民を救うために、リトアニアの在カウナス日本国総領事館から発給された、「命のヴィザ」をめぐる物語。しかし、そのヴィザの真の目的は何だったのか。1940年夏のリトアニアで、いったい何が起きたのか。
ニューヨークのユダヤ系機関に保管されている第一級資料にメスを入れ、「神話」から歴史の真実を取り戻し、「もう一つの脅威」をあらわにする迫真の学術ドキュメント。「日本のシンドラー」に関する伝説は、今後、本書によって書き換えられなければならない。
徹底的に歴史の細部を検証する648ページ。主要関係者人名録、関連年譜、索引、参考資料を附す。ブックデザイン=宗利淳一。
[出版社より]
著 者|菅野賢治
出版社|共和国
定 価|5,200円+税
判 型|菊変型判/並製
頁 数|648
ISBN|978-4-907986-81-0
初 版|2021年07月
Contents
はじめに
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本書の主眼
JDC資料――文書保存の重要性
スルガイリスの史料研究
既存言説と一次資料、その驚くばかりの齟齬
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第一章 リトアニアのソヴィエト化以前(一九三九年九月~四〇年五月)
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JDCとリトアニア――第二次大戦開戦の報をうけて
ヴィルノ/ヴィルニュスのリトアニア併合をうけて
ユダヤ人=リトアニア人合同委員会
リトアニア政府の対応(一)新しい国籍法
脱出者が伝える占領下ポーランドの状況
併合直後のヴィルニュス――ヒレル・レヴィン『スギハラを求めて』を批判する
リトアニア人、ポーランド人、ソ連人、そしてユダヤ人
リトアニア政府の対応(二)支援組織の公認
スヴァウキ地区の状況
ベッケルマンによるリトアニアの情勢分析
リトアニア政府の対応(三)難民登録の実施
戦争難民の実数
難民たちの日常生活
支援金の分配方法をめぐって
ブンド派の独立独歩(一)
ナチスの蛮行をめぐる資料体構築の試み
「エストニア」号拿捕事件
ブンド派の独立独歩(二)
ルバヴィチ派からの支援要請(一)ポーランドに残された同胞たちのために
リトアニア政府の対応(四)ヴィルニュス地区既存住民の処遇
難民の国内分散移住
ヴァルハフティグの行動の軌跡(一)通常のアリヤー事業
ソ連領内から六十名の救出計画
中立国リトアニアからの国外移住
中立国リトアニアにおける反ユダヤ主義とナチズムの脅威
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第二章 ソヴィエト・リトアニアの成立からソ連国籍の強制まで(1940年6月~12月)
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一九四〇年六月~七月の大激動
体を殺すドイツ人、魂を殺すロシア人――「ユダヤ的ユダヤ人」に迫る危険
JDC現地資金確保のための奔走(一)資産凍結のあおり
アメリカ国籍者の脱出――フィンランド北端ペツァモ経由
JDC現地資金確保のための奔走(二)JDCの法令順守主義とベッケルマンの苛立ち
共産主義体制下におけるユダヤ難民の立場
ブンド指導者ボルフ・シェフネルの場合
ソ連領通過の可能性
「キュラソー・ヴィザ」言説の論理矛盾――ヤン・ブロッケン『義人』を批判する
ヴァルハフティグの行動の軌跡(二)ヴィザ取得の推奨
杉原千畝・幸子証言と一次資料の明白な乖離
記憶と歴史――日本版〈ホロコースト産業〉への警鐘
「宣誓供述書」による日本通過ヴィザの発給
ギテルマンのために作成された「宣誓供述書」
ドイツ・ユダヤ移民との関係(一)ドイツからリトアニア経由、日本へ
移住支援という選択肢の急浮上
ラビ・カルマノヴィツのイニシアティヴ
イェシヴァー救出のためのユダヤ教組織全体会議(一九四〇年八月十五日)
ルバヴィチ派からの支援要請(二)現地支援から移住支援へ
イェシヴァー救出のための小委員会(一九四〇年九月九日)
JDC現地資金確保のための奔走(三)移住費用「立て替え」案
シオニスト集団の最初の移送計画
JDC現地資金確保のための奔走(四)リトアニア政府からの借款
「キュラソー」への言及――「ヒアス」上海支部からヴィルニュス支部への手紙
イェシヴァー救出計画の顚末(一)重い足取り
ヴァルハフティグの行動の軌跡(三)日本へ、そして横浜からJDCへの提言
イェシヴァー救出計画の顚末(二)ドイツ籍ユダヤ教神学生たちの命運
イェシヴァー救出計画の顚末(三)国務省との折衝
ヴァルハフティグの行動の軌跡(四)「オデッサ・ルート」の開通
イェシヴァー救出計画の顚末(四)一九四〇年十二月二十六日の全体委員会
JDC現地資金確保のための奔走(五)財務省の許可
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第三章 大脱出(1941年1月~2月)
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ソ連人となるか、無国籍者となるか
イェシヴァー救出計画の顚末(五)「外交上」の言語
ベッケルマンの奮闘(一)「今さもなくば無」
モスクワないし日本での最終ヴィザ受給
「キュラソー・ヴィザ」と「杉原ヴィザ」の存在価値(一)ともかくモスクワまで
ベッケルマンの奮闘(二)ソ連出国ヴィザの大量発給
「パレスティナ移送」と「非=パレスティナ移送」の切り分け
ベッケルマンの奮闘(三)「ヒツェム」主導による五百名
「キュラソー・ヴィザ」と「杉原ヴィザ」の存在価値(二)イントゥーリストを介しての日本通過許可
忘れられた実務者たち
ベッケルマンの奮闘(四)JDCニューヨーク本部の誤解払拭
ドイツ・ユダヤ移民との関係(二)リトアニア残留者の命運
「セント・ルイス号事件」との思わぬ関連
ベッケルマンの奮闘(五)最後の二週間
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結論と今後の課題
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ベッケルマンによる総括(一)
ベッケルマンによる総括(二)
ベッケルマンによる総括(三)
ナチスの脅威の存否
彼らは何〈から〉逃れたのか――証言の扱い、画すべき一線
ひとつの「論争誘発的」な比較
ギテルマンのその後
「ユダヤ難民」という言葉がもたらす非思考
出立しなかった(できなかった)人々の命運――避難地としてのソ連領
アメリカと日本に何ができたか
自己を主張しない功労者たち
あるがままの〈好意〉を〈フツパー〉へと貶めないために
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補遺
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エマヌエル・リンゲルブルムによるイツハク・ギテルマン伝(抄)
書き手不明のJDC文書「リトアニアにおけるユダヤ人の絶滅」(一九四三年)
註
主なJDCメンバー略歴
関連年表
あとがき
人名索引
Author
菅野 賢治 Kenji Kanno
1962年、岩手県に生まれる。東京理科大学理工学部教授。パリ第10(ナンテール)大学博士課程修了。専門は、フランス語フランス文学、ユダヤ研究。主な著書に、『フランス・ユダヤの歴史』(上下、慶應義塾大学出版会、2016年)、『ドレフュス事件のなかの科学』(青土社、2002年)、主な訳書に、ヤコヴ・ラブキン『トーラーの名において』(平凡社、2010年)、レオン・ポリアコフ『反ユダヤ主義の歴史』(共訳、全5巻、筑摩書房、2005~07年)がある。
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