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課税と脱税の経済史——古今の(悪)知恵で学ぶ租税理論
¥4,950
本書でとりあげるのは数千年の期間に生まれた物語の数々である。シュメールの粘土板、カリグラ帝の奇抜な税制から、パナマ文書で暴露された狡猾な租税回避や、ブロックチェーン技術で可能になる税務の仕組みまで。……とはいえ、この本は税金の歴史をまとめた歴史書ではないし、税金の原則を教える入門書でもない。その両方の要素を少しずつ持っている。 税金の原則がわかれば、税金の歴史をとらえるのに役立つ。……一方、税金の歴史がわかれば、税金の原則を解き明かすのに役立つ。…税を立案し、導入するときに取り組むべき問題(公平性、帰着分析、効率性、最適課税などなど)は、基本的に昔もいまも変わらない。 この本の核心をなす基本的なポイントは、税制のよしあしを定める原則の多くがどの時代にも見てとれるということである。それらの原則に目を向ければ、過去を知り、テクノロジーの発展とともに変わりゆく未来のために賢い選択を行なうのに役に立つ。 ——「はしがき」より [出版社より] 「博識にして、ゴキゲンな租税史だ…。税金は払うより、読んだほうがずっと楽しい…。税理士にぜひ確認してほしい――この本は控除対象かもしれない」 ——ダニエル・アクスト[『ウォールストリート・ジャーナル』] 「これ以上タイムリーで、愉快な歴史は想像できない」 ——バリー・アイケングリーン[カリフォルニア大学バークレー校教授] 原 書|REBELLION, RASCALS, AND REVENUE: Tax Follies and Wisdom through the Ages 著 者|マイケル・キーン、ジョエル・スレムロッド 訳 者|中島由華 出版社|みすず書房 定 価|4,500円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|648 ISBN|978-4-622-09755-6 発 行|2025年01月 Contents はしがき/謝辞 第I部 強奪と権力 1 すべての公共のことがら ベンガルからボストンへ かつてなかったほどの不名誉 ボリビアが内陸国である理由 天界の光に税金をかける 何もかもが税金のせいではない。しかし…… 2 われわれが来た道 駆け足でたどる税金の長い歴史 いくら? 戦争と福祉 バベッジの悪夢 債務、債務不履行、そして君主たち お金をつくる 3 別の名前で エリザベス一世から周波数オークションまで 主権の売却 低賃金労働 無賃金労働 金持ちの戦争を貧乏人が戦う 自分の役割を果たす (封建的な)税を納める 一線を超える さらにもう少し ツテを頼る 愚行税 第II部 勝者と敗者 4 まずまずの公平性 串刺し刑 人頭税とイングランド人 崇高な目的 公平性の追求 払っただけの見返りを得られる? 納められるだけの額を納める? サインを示せ 階級別の課税 コミュニティ別の課税 ぜいたく品に対する課税 経済状況の推定 5 財政の強大な動力源 巨人の仕事――イギリスの所得税 ドレッド・スコット判決 激情犯罪とフランスの所得税 古い恐怖と新しい方向 6 誰でも平等に扱われるわけではない 女性らしさに対する課税 特殊な制度 改宗 部外者 見知らぬ土地の見知らぬ人 懲罰としての課税 難しい選択 7 留まるか、移り変わるか 誤ったスタート 他人の知見を盗みとる 忘れてはならないこと 君、10セントの20分の1を都合してくれないか? ものごとは見た目どおりとはかぎらない ワーキングプア(あるいは、彼らの雇用者)に助けの手を差しのべる 非課税の地方債は抜け目のないリッチへの贈呈品か? 法人税の帰着は闇のなか 全体像をとらえる 第III部 行動を変える 8 悪い行ないを改める 正しいことをせよ 家族の問題 知識に対する課税 よい事柄よりも、よくない事柄に課税せよ 地球を救う 牛のおなら、怖い犬、かわいい猫 罪の報い 悪習 飲酒階級にとって忌まわしいもの セックス ドラッグ だがロックンロールは別 不健康な生活 ノーというだけ? 9 巻き添え被害 創意工夫の後押し 奇妙なもの 線を引く 超過負担 煙のないところに火はない 超過負担を知るために 10 ガチョウの羽根のむしり方 聖杯を探して 戦時利得者と法人税を再考する 土地をくれ、広い土地を 富の強制徴収 ダメージの制限 イギリス一の才人 課税ベースを広げ、税率を下げよ(まあ、そうしなくてもいい) 税制の形成 どれだけの羽根を? 11 世界市民 ライスプディングをつかまえる 税金という嵐からの避難 金持ちはわれわれとは違う すでに転居済み 他言しない 虚偽の利益 「私があなたなら、ここはやめておく」 武器(レングス)よさらば? 税を転がす 第IV部 税金はひとりでに集まらない 12 串刺しヴラドと穏便な徴税方法 隙間に注意 いろいろな脱税犯 既知の未知 ムチをたっぷり――アメをちょっぴり まず金をとる 大企業は税務署の友…… ……そして、小規模事業者は税務署の悪夢である 情報が支配する 信頼せよ、しかし確認せよ 納税者も人である 主義のための(公然の)脱税 正直さを政策にする 13 誰かがやらなければならない いろいろな徴税人 誰が集める? 徴税請負制度(および徴税請負人)の隆盛と終焉 キックバック──合法と非合法 税の独立 収税業務の民営化 税務機関の規模は? 税務のテクノロジー 第V部 税をつくる 14 税の喜び 財務大臣の夢 野獣を飢えさせる コヴェントリーからKストリートまで ロビー活動の赤裸々な真実 バター(と税額が同じ)ではないとは信じられない 課税によるチェーン店虐殺 ひとりの免税 課税してはならない──イギリスにおける食料品非課税の400年 政府のゲーム 見えなくする 名前の意味? しまった! まずまずの成功といえる税政策 グッチ峡谷などから得られる教訓 VATの隆盛(と増税) 15 来るべき世界の形 ナブーとユートピアの税制 税金の知恵の柱 納税者の反乱の理由が税金とはかぎらない 言葉に気をつける 昼食代を払うのはあなたかもしれない ともあれ、課税の公平性は達成しがたい 課税とはよい代理指標を見つけることだ 租税回避と脱税に発揮される創造性 課税の最大のコストは目に見えないかもしれない 税はたんなる資金調達ではない 人は怖いから税金を払う 国家主権としての課税権は過去の遺物になりつつある スローガンに注意 未来とその先 厳しい時代 素晴らしき新世界 彼らはわれわれをどう思うか 索引/原注/参考文献/図版クレジット Author マイケル・キーン Michael Keen 東京大学の東京カレッジ潮田フェロー。元国際通貨基金(IMF)財政局次長。IMFにおいては20年以上にわたり、税制についての政策と助言の作成・実施を主導した。世界各地の財務省に助言し、40カ国以上を訪問、さらにはG20やIMF理事会のために重要文書を執筆。米国国税協会から長年の貢献に対してダニエル・M・ホランド・メダルを授与されているほか、国際財政学会の会長を務めた。著書(共著)Taxing Profit in a Global Economy (Oxford University Press, 2020) ほか。 ジョエル・スレムロッド Joel Slemrod ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのビジネス経済学および公共政策教授、および同大経済学部教授。ロス・スクール・オブ・ビジネスの税制研究室長も務める。米国国税協会から長年の貢献に対してダニエル・M・ホランド・メダルを授与されているほか、国際財政学会の会長を務めた。著書(共著)Taxing Ourselves: A Citizen’s Guide to the Great Debate Over Tax Reform (5th ed., The MIT Press, 2017) ほか。 Translator 中島 由華 Yuka Nakajima 翻訳家。訳書 メリマン『亡命トンネル29――ベルリンの壁をくぐり抜けた者たち』(2022)ヘイガン『『ローリング・ストーン』の時代――サブカルチャー帝国をつくった男』(2021)フリスビー『税金の世界史』(以上、河出書房新社、2021)ほか。
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痛み、人間のすべてにつながる——新しい疼痛の科学を知る12章
¥3,520
「痛み」の本質の理解はここ十数年で大きく変わった。17世紀のデカルト以来、「痛みの経路」で多くを説明しようとする古いパラダイムが浸透していたが、最近は脳神経科学と認知心理学を組み合わせた巧みな実験の数々によって知見が深まり、痛みに対処するためのさまざまな実践的アプローチが視野に入ってきた。 痛みは脳でつくられるが、その存在は脳の中だけに閉じてはいない。脳・身体・痛みの関係の本質が新たな常識になれば、より多くの苦痛を軽減することにつながる。本書が啓蒙するのは神経科学以上にそうした本質の認識であり、読み終わるとたしかに、「痛み」と自分の関係が変わっている。 本書では痛みのきわめて多様な側面が取り上げられる。持続性の痛みに対処するために必要なのは、全体論的アプローチだからだ。痛がる脳の最新科学、情動や共感の役割、痛みの社会性、「無痛」の研究、鎮痛薬以外の対処法の展開(認知行動療法から編み物セラピーまで!)……すべての章が、痛みについての新しい理解の扉を開いてくれる。 痛みはあなたを保護する仕組みであり、当事者が痛みに対して主導権を握ることで、痛がる脳はダイナミックに変えられる。読者に手渡されるのは、この知識の力だ。 ——謝辞より [出版社より] 原 書|The Painful Truth: The New Science of why We Hurt and how We Can Heal 著 者|モンティ・ライマン 訳 者|塩崎香織 出版社|みすず書房 定 価|3,200円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|336 ISBN|978-4-622-09738-9 発 行|2024年11月 Contents 本書を読んでいただく前に プロローグ 1 身体の防衛省 ──そもそも痛みとは何か 2 無痛の五人組 ──痛みを感じないとはどういうことか 3 こっちを向いてよ ──注意をそらすことと想像の力 4 期待の効果 ──プラセボ、知覚、そして予測 5 痛みの意味 ──情動と心理の力 6 痛みなければ益もなし ──苦痛と快楽、そして目的 7 誰かの「痛い」を知覚する ──痛みが伝染する理由 8 心をひとつに ──社会的な痛み 9 信じることで救われる ──信念と枠組み[フレーム] 10 静かなるパンデミック ──持続痛クライシス 11 暴走する脳 ──痛みはなぜ残るか 12 痛みの革命[ペインレボリューション] ──持続痛をめぐる新たな希望 謝辞 推薦の辞──本質の理解と、包括的な疼痛医療のために(愛知医科大学 牛田享宏) 用語集 参考文献 索引 Author モンティ・ライマン Monty Lyman 皮膚科医。オックスフォード大学医学部リサーチ・フェロー。オックスフォード大学、バーミンガム大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンに学ぶ。タンザニアの皮膚病調査についてのレポートで2017年にWilfred Thesiger Travel Writing Awardを受賞。デビュー作The Remarkable Life of the Skin: An Intimate Journey Across Our Surface(Bantam Press, 2019)〔塩﨑香織訳『皮膚、人間のすべてを語る』みすず書房、2022〕は英国王立協会科学図書賞の最終候補作になるなど高い評価を得ている。第二作である本書の原書The Painful Truth: The New Science of Why We Hurt and How We Can Heal(Bantam Press, 2021)の元になったエッセイは英国王立医学協会により疼痛エッセイ賞に選ばれた。ほかの著書にThe Immune Mind: The New Science of Health(Penguin Random House, 2024)がある。オックスフォード在住。 Translator 塩崎 香織 Kaori Shiozaki 翻訳者。オランダ語からの翻訳・通訳を中心に活動。英日翻訳も手掛ける。訳書に、ピーター・ゴドフリー=スミス『メタゾアの心身問題』(みすず書房、2023)、モンティ・ライマン『皮膚、人間のすべてを語る』(みすず書房、2022)、スクッテン/オーベレンドルフ『ふしぎの森のふしぎ』(川上紳一監修、化学同人、2022)、『アウシュヴィッツで君を想う』(早川書房、2021)、アンジェリーク・ファン・オムベルヘンほか『世界一ゆかいな脳科学講義』(河出書房新社、2020)、ほか。
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エッシャー完全解読——なぜ不可能が可能に見えるのか
¥2,970
エッシャーの代表作である《物見の塔》《滝》《上昇と下降》などのだまし絵。これらの作品は、一見しただけではそこに錯視図形があるとわからないほど自然に見える。しかし、少しの間をおいて「これはありえない立体だ」と気付いた瞬間、鑑賞者に大きな驚きをもたらす。 この劇的な鑑賞体験はどのようにして作られたのか。エッシャーはまず、絵のあちこちに鑑賞者を誘導するトリックを仕掛け、さらにそれらを手品師さながらに覆い隠していった。そしてトリックの存在を生涯隠し通し、決して語らなかったのだ。 本書は100点を超える図版でだまし絵の制作過程を分解し、エッシャーがかつて5つの作品に仕掛けた視覚のトリックを明らかにしている。エッシャーが制作中に何に悩み、何を大切にしていたかにまで踏み込んでいく。謎解きの楽しさに満ちた1冊。 著者からの7つのヒント ・《物見の塔》 なぜ、1階に囚人がいるのか? ・《物見の塔》 なぜ、一部の屋根だけが高いのか? ・《描く手》 中央の斜めの影は何のためにある? ・《上昇と下降》 階段の周りの屋根や塔の役割は何か? ・《画廊》 中央の空白は何を隠している? ・《滝》 滝壺の位置に何の意味があるのか? ・作中の人物のほとんどが、だまし絵のトリックに加担している [出版社より] 著 者|近藤滋 解 説|趙慶喜 出版社|みすず書房 定 価|2,700円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|208 ISBN|978-4-622-09731-0 初 版|2024年12月 Contents 第1章 見過ごされていたトリック 第2章 《物見の塔》――演技する人々 第3章 《描く手》――できるはずのない影 第4章 消えた風景画 第5章 《上昇と下降》――見えない継ぎ目 第6章 《画廊》――異世界のつなぎ方 第7章 遠近法の弱点 第8章 《滝》――遠近法の限界を超える あとがき 画像出典 参考文献 Author 近藤 滋 Shigeru Kondo 1959年生まれ。1988年、京都大学医学研究科博士課程修了。大阪大学大学院生命機能研究科教授をへて、2024年から国立遺伝学研究所所長。専門は発生学、理論生物学。生物の縞模様が、分子の反応が作る「波」であるというアラン・チューリングの予測を実証した。著書に『波紋と螺旋とフィボナッチ』(学研メディカル秀潤社、2013)、『いきもののカタチ』(学研プラス、2021)がある。
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韓国、男子——その困難さの感情史
¥3,300
「男」は理不尽な観念だ。ジェンダー間の格差・分断・差別の歴史の中で、男性は「男」であるがゆえに抑圧する主体だった。他方、「男なら……」という期待は、当事者に「失敗と挫折でがんじがらめ」の内的経験をもたらしてもきた。日本においても然り。だが韓国では、この問題を感情史的アプローチで探究する試みがいち早く登場した。 韓国ドラマの男たちが“おんな子どもを守る強い男”の類型を引きずり続けるのはなぜだろう? フェミニズムへの関心の高い国で、なぜ若者がバックラッシュの政策を支持するのか? その背景にある男性性の問題、すなわち「韓国男子」のこじれの源を、本書は近現代史上の事象や流行語を手がかりに辿る。 「男子(ナムジャ)」の苦難や煩悶が、非‐男性への抑圧と表裏をなしながら、いかにして社会を構成する人々全体の生きづらさに与ってきたか。朝鮮王朝時代、植民地化、南北分断と軍政、民主化、新自由主義化といった局面に応じて、男性性をめぐる新たな困難と、そこから噴き出る抑圧と暴力の構図が繰り返し出現した。終盤では、兵役が生む軋轢や、オンラインで拡散する苛烈なミソジニーとバックラッシュに揺れる2000年以降の社会の様相を見る。 「このような作業が必要な理由は、まず理解するためだ。」今日の韓国の人々の心性を理解するための重要な知見と示唆に溢れた論考であるとともに、日本における同じ問題を合わせ鏡で見るような書だ。 [出版社より] 原 書|한국, 남자 귀남이부터 군무새까지 그 곤란함의 사회사 著 者|チェ・テソプ 訳 者|小山内園子・すんみ 解 説|趙慶喜 出版社|みすず書房 定 価|3,000円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|312 ISBN|978-4-622-09745-7 初 版|2024年12月 Contents ■序 いま、韓国の男たち■ ソン・ジェギと男性「連帯」 仁義なき戦い ボタンを押した男たち 韓(国)男(子)の起源と現在 ■1 問題になる男■ ──「貴男[グィナム]」たちが招いた危機 跡を継ぐ息子 戸主制と女性の再植民化 「貴男」たち 削除された女児たち 人口抑制計画 没落する男たち 男の終末 in 韓国 溜まりつづける男たち ■2 “真の男”を探して■ ──「ヘゲモニックな男性性」の起源 トレードマークは“真の男” 男らしさの身体的起源 「男」対「野生」 作られた男 ヘゲモニックな男性性 支配のコスト ■3 韓国男子の憂鬱な起源■ ちゃっかりした無能力者たち 輸入された男──植民地男性の不遇な誕生 反共戦士を作る 朝鮮戦争──男性性の墓 傷痍軍人、兵役忌避者、そして女たち 軍靴をはいた継父──徴兵制と産業の担い手 「いい暮らしをしよう」──仲むつまじい中産層を目指して 男性性の極限──80年光州の空挺部隊 光州の息子たち──不正な父に立ち向かって ■4 変化と没落■ ──1990年代と韓国、男子 Xな新時代の男たち うなだれている男──IMF通貨危機と「男性性の危機」 ■4.5 ピンクの服をまとった男たち■ メトロセクシュアルと新たな男性性? ■5 悔しい男たち■ 軍オウム[グンムセ]の歌と悔しい男たちの誕生 女性嫌悪の年代記1──味噌女の誕生 女性嫌悪の年代記2──キムチ女からメガルまで 出口のない循環──遊び文化と女性嫌悪 でっち上げられた嫌悪 「代替現実」としての女 ■結び 韓国男子に未来はあるか■ 謝辞 日本語版へのあとがき──2023、依然として、“韓国、男子”たち 解説──フェミニズムへの応答としての韓国男子論(趙慶喜) 訳者あとがき 参考文献 索引 Author チェ・テソプ 최태섭 1984年生まれ。文化評論家、社会学研究者。聖公会大学校社会学科にて博士課程修了。ジェンダー、政治、労働問題に重点を置いて執筆活動をしている。2011年の共著書『열정은 어떻게 노동이 되는가〔情熱はいかにして労働になるのか〕』(ウンジン知識ハウス)では、韓国社会の若者世代に「情熱」という形態をとって強要される不合理な労働について論じた。2013年、世代論だけでは説明できない搾取と疎外を「余剰」をキーワードに考察する単著『잉여사회〔余剰社会〕』(ウンジン知識ハウス)を発表。2018年に本書の原書『한국, 남자〔韓国、男子〕』(ウネンナム)、2021年にはゲーム産業・文化について考察した『모두를 위한 게임 취급 설명서─게임에 대해 궁금하지만 게이머들은 답해줄 수 없는 것들〔みんなのためのゲーム取扱説明書──ゲームについて疑問に思うが、ゲーマーは答えることができないもの〕』(ハンギョレ出版)を上梓した。ほかの著書に、『억울한 사람들의 나라〔やりきれない者たちの国〕』(ウィズダムハウス、2018)など。 Translator 小山内 園子 Sonoko Osnai 1969年生まれ。韓日翻訳者、社会福祉士。訳書に、ク・ビョンモ『破果』(岩波書店、2022)など。すんみとの共訳書にイ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(タバブックス、2018)。 すんみ 1986年生まれ。韓日、日韓翻訳者。訳書に、チェ・ジニョン『ディア・マイ・シスター』(亜紀書房、2024)、ウン・ソホル他『5番レーン』(鈴木出版、2022)など。小山内園子との共訳書にイ・ミンギョン『失われた賃金を求めて』(タバブックス、2021)。 Commentary 趙 慶喜 1973年生まれ。韓国・聖公会大学東アジア研究所教員。主な共著書に『残余の声を聴く──沖縄・韓国・パレスチナ』(明石書店、2021)、『주권의 야만─밀항・수용소・재일조선인〔主権の野蛮──密航・収容所・在日朝鮮人〕』(ハンウル、2017)。
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平等についての小さな歴史
¥2,750
3000ページの達成を250ページに凝縮。公正な未来のために、経済学からの小さな贈り物。 「〈あなたの著書はとても興味深いです。でも、その研究について友人や家族と共有できるように、もう少し短くまとめて書いてもらえるとありがたいですが、どうでしょう?〉 このささやかな本はある意味、読者の皆さんにお会いするたびに決まって言われたそんな要望に応えたものだ。私はこの20年間に不平等の歴史について3冊の著作を世に出したが、いずれもおよそ1000ページにも及ぶものになった。『格差と再分配』『21世紀の資本』『資本とイデオロギー』の3冊だ。…こうして積み重ねられた膨大な量の考証を前にすれば、どんなに好奇心旺盛な人でも意気消沈してしまうことだろう。そこで私はこれまでの研究を要約することにした。本書はその成果である。 しかし本書は、こうした研究から得られる主な教訓を総論的に紹介しているだけではない。…自分の数々の研究を通して深めた確信に基づいて平等の歴史についての新たな展望を示している」 ——謝辞より [出版社より] 「格差に対処する野心的な計画を提示している。…政治の未来についての議論の出発点だ」 ——マイケル・J・サンデル(ハーバード大学教授|『実力も運のうち』) 「ピケティにとって、歴史の弧は長く、しかも平等に向かっている。…平等を成し遂げるには、つねに無数の制度を[再]創造しなくてはならない。本書はそれを助けるためにやってきた」 ——エステル・デュフロ(2019年ノーベル経済学賞受賞者) 「不平等から平等へと焦点を移したピケティが示唆しているのは、必要なのは鋭い批判だけではなく、回復のための治療法だということだ」 ——ジェニファー・サライ(『ニューヨーク・タイムズ』) 原 書|UNE BRÈVE HISTOIRE DE L'ÉGALITÉ 著 者|トマ・ピケティ 訳 者|広野和美 出版社|みすず書房 定 価|2,500円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|264 ISBN|978-4-622-09732-7 初 版|2024年09月 Contents はじめに 新しい経済史、社会史 不公平に対する反乱、公正な制度を学ぶ パワーバランスとその限界 1 平等への歩み――最初の手がかり 人類の進歩――すべての人のための教育と保健医療 世界人口と平均所得――成長の限界 社会・経済指標の選択――政治的な問題 さまざまな社会・環境指標を選択する 不平等対策なくして持続可能な発展はない 2 遅々として進まない権力と資産の分散 18世紀以降の資産集中の推移 資産と権力――権利の束 生産手段、住居、国債、海外資産を所有することの意味 ようやく台頭しはじめた中産階級 所得のさらなる平等への長い歩み 3 奴隷制と植民地主義の遺産 産業革命、植民地主義、環境 大分岐の起源――ヨーロッパの軍事的支配 綿の帝国――世界の繊維産業を支配 保護主義、中心と周辺の関係、世界システム論 ヨーロッパを地方化する、西ヨーロッパの特殊性を再考する 経済史、社会史、国家建設の歴史 4 賠償問題 奴隷制の廃止――奴隷所有者への金銭的賠償 フランス政府は、ハイチが支払った債務を返還すべきか? イギリスとフランスにおける奴隷制廃止と損失補償、1833年と1848年 アメリカ、長く続いた奴隷制共和国 奴隷解放後の植民地主義と強制労働の問題 フランス、自覚のない植民地主義共和国 賠償問題――超国家レベルで公正について再考する 5 革命、身分、階級 特権と身分による差別の終焉? 強制労働および半強制労働からの脱却への長い道のり 1900年代のスウェーデン――一人百票の投票権 特権の変容――お金で動く民主主義 いつまでも続く納税額に基づく制限選挙――経済界の金権主義 参加型社会主義と権限共有 6 「大再分配」、1914-1980年 社会国家の創出――教育、保健医療、社会保障 租税国家の第二の大きな前進――人類学的改革 所得および相続財産に対する累進税の創設 真の累進性と社会契約――納税に対する同意の問題 累進税――課税前の格差も縮小させるためのツール 植民地資産と公的債務の清算 公的債務の帳消しのおかげで復興したヨーロッパ 7 平等の限界――資産の極端な集中 社会国家と累進税――資本主義の徹底的な変革 所有権と社会主義――分権化の問題 分権化した自主管理による民主社会主義を目指して 資本の自由な移動――新しい財産主義権力 8 差別と闘う真の平等 教育の機会均等――声高に叫ばれているものの、いまだに実現していない 社会的基準に基づくアファーマティブ・アクションのために 居座り続ける家父長制と生産性第一主義 アイデンティティを硬直化させることなく、差別と闘う 社会的パリテと富の再分配を両立させる どれほどの人種差別があるか見極める――民族・人種カテゴリーの問題 宗教的中立とフランス流政教分離の偽善 9 新植民地主義からの脱却 栄光の30年と南側世界――社会‐国民国家の限界 新植民地主義、貿易の自由化、タックスヘイブン 見せかけの国際援助と気候変動政策 貧困国の権利――世界の中心と周辺という考え方からの脱却 社会‐国民国家から社会‐連邦国家へ 民主的な社会連邦主義を目指して 10 環境に配慮した多民族共生の民主社会主義へ 変わる力――気候温暖化とイデオロギー闘争 中国社会主義、完全なデジタル専制体制の脆さ 資本主義間の戦争から社会主義間の闘いへ 通貨は私たちを救ってくれるだろうか? 普遍的主権主義を目指して 索引 原注 図表一覧 Author トマ・ピケティ Thomas Piketty パリ経済学校経済学教授。社会科学高等研究院(EHESS)経済学教授。EHESSおよびロンドン経済学校(LSE)で博士号を取得後、マサチューセッツ工科大学(MIT)で教鞭を執る。2000年からEHESS教授、2007年からパリ経済学校教授。多数の論文を the Quarterly Journal of Economics, the Journal of Political Economy, the American Economic Review, the Review of Economic Studies で発表。著書も多数。経済発展と所得分配の相互作用について、主要な歴史的、理論的研究を成し遂げた。特に、国民所得に占めるトップ層のシェアの長期的動向についての近年の研究を先導している。世界不平等研究所、世界不平等データベースの共同所長、また欧州の民主化に向けたマニフェストの主唱者でもある。邦訳書『21世紀の資本』(みすず書房、2014)『格差と再分配』(早川書房、2016)『トマ・ピケティの新・資本論』(日経BP、2015)『不平等と再分配の経済学』(明石書店、2020)『資本とイデオロギー』(みすず書房、2023)。 Translator 広野 和美 Kazumi Hirono 翻訳家。訳書 アレ & アダム『マンガで読む 資本とイデオロギー』ピケティ原作(みすず書房、2024)ル・ブルトン『歩き旅の愉しみ』(草思社、2022)ペリノ『0番目の患者』(共訳、柏書房、2020)ル・ケンヌ『フランス式 おいしい調理科学の雑学』(パイインターナショナル、2020)ほか。
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SS将校のアームチェア
¥4,400
古いアームチェアを修理に出したところ、中から書類の束が見つかった。鉤十字の印があり、一見してナチの文書とわかるものだった。誰が、何のために隠したのか。謎を託された著者は、その行方を追う。 書類の持主は、ローベルト・グリージンガー。SS(親衛隊)将校だった。プラハの椅子職人、シュトゥットガルトに住む甥、二人の娘、遺された日記、各国の公文書館を探るうちに、その人生が徐々に明らかになっていく。 娘たちは父親がSS将校であったことを知らなかった。グリージンガーはSSに所属しつつ、法務官として仕事をしていた。彼のように一見普通の市民として生活していたSSは多くいたが、戦後の裁判の対象ではなかったため、その実態は定かではない。 第三帝国の一部として淡々と職務を果たした「普通のナチ」と、その家族。歴史から忘れられたナチの足跡が浮かび上がる。 [出版社より] 原 書|THE SS OFFICER’S ARMCHAIR 著 者|ダニエル・リー 訳 者|庭田よう子 出版社|みすず書房 定 価|4,000円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|400 ISBN|978-4-622-09034-2 初 版|2021年11月 Contents 序章 第1章 「本物の」ナチ 第2章 アメリカから受け継いだ思想 第3章 「零時」 第4章 「戦中少年」世代 第5章 空虚な話 第6章 SSの家族 第7章 生存圏(レーベンスラウム) 第8章 スタヴィシチェ 第9章 ビール瓶 第10章 バーンホフ通りの男 第11章 ギーゼラはダンスに出かけた 終章 謝辞 写真と地図のリスト 利用したアーカイブ 原注 索引 Author ダニエル・リー Daniel Lee 歴史学者。専門は、第二次世界大戦およびホロコーストにおけるフランスと北アフリカのユダヤ人の歴史。著書にPétain's Jewish Children(2014)がある。 Translator 庭田 よう子 Yoko Niwata 翻訳家。訳書に、ストーム『イスラム過激派二重スパイ』(亜紀書房、2016)、ゲーノ『避けられたかもしれない戦争』(東洋経済新報社、2017)、ハリントン『ウェルス・マネジャー 富裕層の金庫番』(みすず書房、2018)、ファン・デル・クナープ編『映画『夜と霧』とホロコースト』(みすず書房、2018)、スナイダー『目に見えない傷』(みすず書房、2020)ほか多数。
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青森 1950-1962 工藤正市写真集
¥3,960
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昭和30年代の青森で、人知れず奇跡の瞬間を撮り溜めていた写真家がいた。没後、発見されたフィルムの束。そこに写されていたのは、戦後の青森に生きる人々の日常の姿と、やがて失われる情景への思慕にみちた、故郷を愛する写真家のまなざしである。 家族がインスタグラムで発表するや、国内外の写真ファンの間で話題に。工藤正市の写真の魅力に、今、世界は目を奪われている。 ・残されたプリントとフィルムから一挙366点を収録 ・写真家の写真雑誌入選作をたどる略歴を付す ・青森市街の撮影ポイントを示す地図を掲載 [出版社より] 著 者|工藤正一 出版社|みすず書房 定 価|3,600円+税 判 型|A5変形判/上製 頁 数|408 ISBN|978-4-622-09020-5 初 版|2021年09月 Author 工藤 正一 Shoichi Kudo 昭和4年(1929)青森市生まれ。旧制中学校を卒業後、昭和21年(1946)に東奥日報社に入社。 昭和20年代中頃から写真雑誌の月例コンテストや写真展へ応募した作品が高い評価を受ける。昭和28年(1953)月刊『カメラ』月例第一部(大型印画)の年間1位となる。月例の審査を担当していた土門拳、木村伊兵衛、濱谷浩などの写真家との交流もあった。昭和30年代に入ると仕事との両立が難しくなり、次第にコンテストへの応募をやめ、仕事に専念するようになる。 昭和39年に青森県写真連盟の設立に関わるなど地元写真界での活動は続けていく。昭和40年代東奥日報社写真部長となり、昭和50年代には機械報道部長や弘前支社長などの役職を歴任。昭和63年頃、東奥日報社を退社。青森西南部東奥日報販売(株)取締役社長に就任。平成3年頃、青森西南部東奥日報販売(株)を退社。平成26年(2014)逝去。
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資本主義だけ残った——世界を制するシステムの未来
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二つの資本主義が世界を覆っている。米国に代表されるリベラル能力資本主義と、中国に代表される政治的資本主義だ。この両者がはらむ、不平等の拡大と腐敗の進行という病弊の根本原因を喝破し、欧米の社会科学界を震撼させたベストセラー。 『エコノミスト』誌ベストブック。『フィナンシャル・タイムズ』紙ベストブック。『フォーリン・アフェアーズ』誌ベストブック。『プロマーケット』誌ベストブック。『プロスペクト』誌ベストブック。 [出版社より] 原 書|CAPITALISM, ALONE: The Future of the System That Rules the World 著 者|ブランコ・ミラノヴィッチ 訳 者|西川美樹・梶谷懐 出版社|みすず書房 定 価|3,600円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|360 ISBN|978-4-622-09003-8 初 版|2021年06月 Contents 1 冷戦後の世界のかたち 1 資本主義はただひとつの社会経済システムである 2 アジアの台頭と世界の再均衡化 本書の核心 2 リベラル能力資本主義 リベラル能力資本主義の定義 1 リベラル能力資本主義の特徴 a 過去の資本主義 資本所有者と労働者間の純生産物の分配/資本金持ちと労働金持ち/結婚のパターン/不平等の世代間継承/リベラル能力資本主義の複雑な性質 b リベラル能力資本主義で不平等を拡大させるシステム的要因と非システム的要因 2 システム的な不平等 a 国民所得に占める資本所得の総取り分の上昇 b 資本所有の高い集中 富の呪い c 金持ちの資産は収益率が高い d 同じ個人のなかで高い資本所得と高い労働所得が結びつく e 同類婚(釣り合った結婚)の増加 結婚教育プレミアム f 所得と富の世代間継承の増大 相対的移動性の低下 3 新たな社会政策 a なぜ21世紀の所得不平等に取り組むのに20世紀のツールが使えないのか 税と移転でできることの限界/小さな国家というリバタリアン的ユートピアは原始共産的政策でのみ達成できる/資本の所有の分散/同じ質の教育への平等なアクセス b グローバリゼーション時代の福祉国家 移民と福祉国家 4 上位層は自己永続的か 上位1%が支配する政治/権力と富が結びつく/エリートが高額な教育を選ぶのは権力を強化するため/相続財産/上位層は部外者に開かれているか/リベラル能力資本主義での今日のエリート像 3 政治的資本主義 1 共産主義の歴史的位置づけ a マルクス主義的世界観とリベラルな世界観では共産主義の歴史的位置づけを説明できない 用語の明確化──「共産主義」と「社会主義」/マルクス史観とリベラル史観における共産主義の役割/共産主義を扱うことの難しさ b 20世紀の歴史において共産主義をどう位置づけるか 共産主義の世界史的な役割 2 第三世界(の一部)が資本主義化するために、なぜ共産主義革命が必要とされたのか a 第三世界で共産主義革命が果たした役割 社会革命と国民革命 b 共産主義が成功したのはどこの国か マルクスに反して、社会主義は先進国では成功しなかった c 中国は資本主義か 3 政治的資本主義のおもな特徴 a 三つのシステム的特徴と二つのシステム的矛盾 鄧小平は現代の政治的資本主義の生みの親/固有の腐敗/システムについてのまとめ b 政治的資本主義のシステムを擁するのはどの国か 4 中国の不平等についての考察 a 不平等全体の拡大 資本所得の割合が上昇 b 腐敗と不平等 腐敗の分配効果 5 政治的資本主義の持続性とグローバルな魅力 a ブルジョワジーが中国を支配するのか スミス的資本主義とマルクス的資本主義/不透明な所有権と法の支配の欠如は異例ではない/中国は民主化するのか b 中国は政治的資本主義を「輸出」するのか 適度な腐敗を受け入れる/中国は無関心/中国の政治的資本主義は移植できるか/なぜ中国は世界と(今より)かかわることが必要になるのか/政治的資本主義が成功するための決定的要因 4 資本主義とグローバリゼーションの相互作用 1 労働と移民 a 市民権プレミアムまたはレントの定義 市民権は「観念的」カテゴリー b 経済資産としての市民権 市場性資産としての市民権/サブ市民権 c 生産要素の自由な移動 生産要素の自由な移動を支持する態度への変化/グローバリゼーションのもとでの移民/労働が資本と異なるのはなぜか d 自国民の懸念と移民の希望との折り合いをつける 移民についての提案/この提案のメリット/この提案のデメリット 2 資本とグローバル・バリューチェーン アンバンドリングとしてのグローバリゼーション/第二のグローバリゼーション/第二のグローバリゼーションがグローバル資本主義をもたらした 3 福祉国家——生き残るために 左派政党と福祉国家/機会のグローバルな不平等 4 世界に広がる腐敗 a グローバリゼーション時代における腐敗の三つの根拠 資本主義世界経済に統合されていない国では腐敗が制限される/受け入れ国で世界的な腐敗を可能にする要因/富裕国の消費パターンを模倣 b 腐敗を抑えるために今後もおそらくほぼ何もなされないのはなぜか 5 グローバル資本主義の未来 1 超商業化資本主義では道徳観念の欠如が避けられない a マックス・ヴェーバーの資本主義 私悪は公益なり b 道徳のアウトソーシング 内なる行動規範がない c 「代わりはない」 システムからの撤退は現実的な選択肢ではない 2 原子化と商品化 a 家庭の利用価値が下がる 家庭生活への法的侵入が原子化を促す b 日常の資本主義としての個人の生活 新たな商品の創造/商品化のマイナス面/人びとが資本主義における生産拠点になる c 資本主義の覇権 3 技術進歩に対する根拠のない不安 a 労働塊の誤謬と私たちが未来を思い描けないこと ロボットと擬人観の魅力 b ユニバーサル・ベーシックインカムの問題点 UBIは福祉国家の新たな理念を暗示する 4 豪奢で快楽に満ち(ルュクス・エ・ヴォリュプテ) a 二つのシナリオ——戦争と平和 b 政治的資本主義 vs リベラル資本主義 所得と政治的自由のトレードオフ/三つのシナリオ c グローバルな不平等と地政学的変化 d おわりに——本書が導くかもしれない社会システムについて 付録A グローバルな歴史における共産主義の位置づけ 付録B 超商業化とアダム・スミスの「見えざる手」 付録C 方法論的問題と定義 謝辞 解説 資本主義は不平等と腐敗を克服できるか 梶谷懐 索引/原注/参考文献 Author ブランコ・ミラノヴィッチ Branko Milanovic ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。ベオグラード大学で博士号を取得後、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務める。2003-05年にはカーネギー国際平和基金のシニア・アソシエイト。所得分配について、またグローバリゼーションの効果についての方法論的研究、実証的研究を、Economic Journal, Review of Economics and Statisticsなどに多数発表。邦訳書『大不平等』(2017)『不平等について』(2012、以上みすず書房)。 Translator 西川 美樹 Miki Nishikawa 翻訳家。パメラ・ロトナー・サカモト『黒い雨に撃たれて』(共訳、上下巻、慶應義塾大学出版会、2020)ウィットマン『ヒトラーのモデルはアメリカだった』(みすず書房、2018)バスコム『ヒトラーの原爆開発を阻止せよ!』(亜紀書房、2017)ほか。 梶谷 懐 Kai Kajitani 神戸大学大学院経済学研究科教授。専門は現代中国経済。神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。神戸学院大学准教授などを経て現職。著書『中国経済講義』(中公新書、2018)『日本と中国経済』(ちくま新書、2016)『現代中国の財政金融システム』(名古屋大学出版会、2011、大平正芳記念賞)ほか。
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数の発明——私たちは数をつくり、数につくられた
¥3,740
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“なぜ人類だけが、どこまでも数を数えられるのか。それは、ヒトが生得的に数の感覚を持っているからだ”――数は、私たちの思考に深く根付いている。だからこの説明は、一見するともっともらしい。 しかし、アマゾンには数を持たない人々が暮らしている。幼少期、宣教師の父とともにこのピダハン族と暮らし、人類学者となった著者によれば、数は車輪や電球と同じ「発明品」であるという。 「数の感覚」がまったく存在しないというわけではない。ピダハン族や乳児の調査によれば、彼らは数についてごく限られた感覚を持つ。人類は長い間、この曖昧な感覚だけで生きてきたのだ。 そして私たちも、幼い頃は数のない世界を見ていた。今、数がわかるのは、かつて発明された数体系を受け継いだからこそである。各地の言語には、身体やさまざまな物を足がかりに発明が起きた跡が残されている。そしてピダハン族のように、発明が起こらなかった例も存在する。 「わかったのは、ピダハンについてではなく、人類すべてに関することだ」。考古学、言語学、認知科学、生物学、神経科学に散らばる手がかりを横断し、数の発明の経緯を探り、その影響を展望する書。 [出版社より] 原 書|Numbers and the Making of Us: Counting and the Course of Human Cultures 著 者|ケイレブ・エヴェレット 訳 者|屋代通子 出版社|みすず書房 定 価|3,400円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|336 ISBN|978-4-622-08964-3 初 版|2021年05月 Contents 序 人間という種の成功 第一部 人間の営為のあらゆる側面に浸透している数というもの 1 現在に織り込まれている数 2 過去に彫りこまれている数 3 数をめぐる旅──今日の世界 4 数の言葉の外側──数を表す言い回しのいろいろ 第二部 数のない世界 5 数字を持たない人々 6 幼い子どもにとっての数量 7 動物の頭にある数量 第三部 わたしたちの暮らしを形作る数 8 数の発明と算術 9 数と文化──暮らしと象徴 10 変化の道具 謝辞 訳者あとがき 原注 索引 Author ケイレブ・エヴェレット Caleb Everett マイアミ大学人類学部教授、同学部長。専門は人類学・言語学。言語と非言語的な認知・文化・環境の相互作用に関心を持つ。著書にLinguistic relativity: Evidence across languages and cognitive domains(De Gruyter Mouton, 2013)がある。父は『ピダハン』(屋代通子訳、みすず書房、2012年)の著者のダニエル・L・エヴェレット。幼少期に宣教師の父とともにピダハン族の村で過ごした。本書はSmithsonian誌が選ぶ「2017年の10冊」に選ばれ、同年の米国出版社協会の学術出版賞The PROSE Awardを受賞した。 Translator 屋代 通子 Michiko Yashiro 翻訳家。訳書にキム・トッド『マリア・シビラ・メーリアン』、ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン』(以上、みすず書房)、トリスタン・グーリー『ナチュラル・ナビゲーション』『日常を探検に変える』(以上、紀伊國屋書店)、ケン・トムソン『外来種のウソ・ホントを科学する』、デヴィッド・G・ハスケル『木々は歌う』(以上、築地書館)など。自然科学系翻訳に取り組む傍ら、被暴力体験のある若者の自立支援に携わり、その方面の仕事ではイギリス保健省・内務省・教育雇用省『子供保護のためのワーキング・トゥギャザー』(共訳・医学書院)などがある。
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ピダハン——「言語本能」を超える文化と世界観
¥3,740
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著者のピダハン研究を、認知科学者S・ピンカーは「パーティーに投げ込まれた爆弾」と評した。ピダハンはアマゾンの奥地に暮らす少数民族。400人を割るという彼らの文化が、チョムスキー以来の言語学のパラダイムである「言語本能」論を揺るがす論争を巻き起こしたという。 本書はピダハンの言語とユニークな認知世界を描きだす科学ノンフィクション。それを30年がかりで調べた著者自身の奮闘ぶりも交え、ユーモアたっぷりに語られる。驚きあり笑いありで読み進むうち、私たち自身に巣食う西欧的な普遍幻想が根底から崩れはじめる。 とにかく驚きは言語だけではないのだ。ピダハンの文化には「右と左」や、数の概念、色の名前さえも存在しない。神も、創世神話もない。この文化が何百年にもわたって文明の影響に抵抗できた理由、そしてピダハンの生活と言語の特徴すべての源でもある、彼らの堅固な哲学とは……? 著者はもともと福音派の献身的な伝道師としてピダハンの村に赴いた。それがピダハンの世界観に衝撃を受け、逆に無神論へと導かれてしまう。ピダハンを知ってから言語学者としても主流のアプローチとは袂を分かち、本書でも普遍文法への批判を正面から展開している。 [出版社より] 原 書|Don't Sleep, There Are Snakes: Life and Language in the Amazonian Jungle 著 者|ダニエル・L・エヴェレット 訳 者|屋代通子 出版社|みすず書房 定 価|3,400円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|408 ISBN|978-4-622-07653-7 初 版|2012年03月 Contents はじめに プロローグ 第一部 生活 第1章 ピダハンの世界を発見 第2章 アマゾン 第3章 伝道の代償 第4章 ときには間違いを犯す 第5章 物質文化と儀式の欠如 第6章 家族と集団 第7章 自然と直接体験 第8章 一〇代のトゥーカアガ──殺人と社会 第9章 自由に生きる土地 第10章 カボクロ——ブラジル、アマゾン地方の暮らしの構図 第二部 言語 第11章 ピダハン語の音 第12章 ピダハンの単語 第13章 文法はどれだけ必要か 第14章 価値と語り——言語と文化の協調 第15章 再帰(リカージョン)──言葉の入れ子人形 第16章 曲がった頭とまっすぐな頭——言語と真実を見る視点 第三部 結び 第17章 伝道師を無神論に導く エピローグ 文化と言語を気遣う理由 訳者あとがき 事項索引 人名索引 Author ダニエル・L・エヴェレット Daniel Leonard Everett 言語人類学者。ベントレー大学Arts and Sciences部門長。1975年にムーディー聖書学院を卒業後、あらゆる言語への聖書の翻訳と伝道を趣旨とする夏期言語協会(現・国際SIL)に入会、1977年にピダハン族およびその周辺の部族への布教の任務を与えられ、伝道師兼言語学者としてブラジルに渡りピダハン族の調査を始める。以来30年以上のピダハン研究歴をもつ第一人者(その間、1985年ごろにキリスト教信仰を捨てている)。1983年にブラジルのカンピーナス大学でPhDを取得(博士論文のテーマは生成文法の理論にもとづくピダハン語の分析)。マンチェスター大学で教鞭をとり、ピッツバーグ大学の言語学部長、イリノイ州立大学言語学部長、教授を経て現職。アメリカ、イギリスで刊行された本書の原著は日本語以外にもドイツ語、フランス語、韓国語、タイ語、中国語に翻訳されている。ほかの著書に、Linguistic Fieldwork (共著、Cambridge University Press, 2011)がある。また、本書への反響の余波としては、著者の人生を描いたドキュメンタリー映画Grammar of Happinessが制作され、その作品が2012年のFIPA(TV番組の国際的なフェスティバル)でEuropean Jury Prizeを受賞している。 Translator 屋代 通子 Michiko Yashiro 翻訳家。訳書にキム・トッド『マリア・シビラ・メーリアン』、ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン』(以上、みすず書房)、トリスタン・グーリー『ナチュラル・ナビゲーション』『日常を探検に変える』(以上、紀伊國屋書店)、ケン・トムソン『外来種のウソ・ホントを科学する』、デヴィッド・G・ハスケル『木々は歌う』(以上、築地書館)など。自然科学系翻訳に取り組む傍ら、被暴力体験のある若者の自立支援に携わり、その方面の仕事ではイギリス保健省・内務省・教育雇用省『子供保護のためのワーキング・トゥギャザー』(共訳・医学書院)などがある。
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ナチス絵画の謎——逆襲するアカデミズムと「大ドイツ美術展」
¥4,180
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「ナチス絵画」とは何か。戦争画をはじめ、そのプロパガンダ的要素や国民にとっての「わかりやすさ」については、ほぼ周知であろう。だが、より広い文脈で考えたとき、そこにはさまざまな要素や背景が絡んでいることがわかる。 本書は、1937年に「頽廃美術展」と同時にミュンヘンで開催された「第1回大ドイツ美術展」、とりわけそこに出品され注目を浴びたアドルフ・ツィーグラーの絵画作品『四大元素』を主な対象に、狭義の美術史やナチス研究とは異なる複合的視点から、ナチス美術のあり方をさぐる考察である。具体的には、ツィーグラーという人物とその背景、ナチスの芸術政策の展開、ミュンヘン造形美術アカデミーの歴史、美術アカデミー制度とモダニズム美術の関係、ナチス美術における絵画技術と複製技術メディアの問題、ドイツ・近代美術史におけるミュンヘンの位置、世紀末ドイツ美術界における「ドイツ芸術論争」などの論点を手がかりに、その全体像に迫る試みである。 「大ドイツ美術展」に展示された無名に近い画家たちの絵画はどのようなものであったか。「頽廃」の烙印を押されたミュンヘンの画家たちは? さらにナチス建築の折衷主義、ヒトラーやゲッベルスの発言を含む歴史的資料の検討、メディア史の理論的考察などを通じて、文化史におけるナチス美術の意味を明らかにする。 [出版社より] 著 者|前田良三 出版社|みすず書房 定 価|3,800円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|296 ISBN|978-4-622-08986-5 初 版|2021年03月 Contents はじめに――ナチス美術のイコン 第1章 1937年夏、ミュンヘン 二つの美術展 褐色都市 1937年の男 ドイツ芸術とは何か ヒトラーの「作品」 ただ一度の夏 第2章 アドルフ・ツィーグラーとは誰か 特性のない男 二人のアドルフ 無名画家の変身 凡庸なるオポチュニスト もう一人のアドルフ 第3章 路線闘争 モダニスト・ゲッベルス? ゲッベルス対ツィーグラー ゲッベルスと文化政策 ローゼンベルクの敗退と延命 エーミール・ノルデの場合 美術アカデミーの強制的同一化 美術団体の強制的同一化 第4章 謎の絵 絵の謎 『四大元素』の謎 フレームの機能 闘争宣言のフォーマット ヌードという問題 「生/性政治」あるいはナチス美術の二つの身体 第5章 『四大元素』を読む 人物像あるいは「自然」のアレゴリー 色の問題 ナチス体制の可視化 「北方ルネサンス」の系譜 「技術」の勝利と「芸術」の敗北 間奏 ナチス建築あるいは決断主義的折衷主義 折衷様式あるいは建築における統合原理 折衷主義建築と受容モード 記憶の場における歴史的記憶の破壊 芸術としての政治と「決断主義」 第6章 美術アカデミーという問題 美術アカデミーの歴史とイデオロギー 反アカデミズムとしての近代美術史 視覚文化の大衆化とアカデミー 第7章 逆襲するアカデミズム アカデミズムと「ナチス美術」 絶対化される「技能」 マックス・デルナーとミュンヘン・アカデミズム 新たなプログラム――手業的技量の復興 アカデミズムの逆襲 「大ドイツ美術展」のスターたち 複製技術時代の「絵画技術」 第8章 世紀転換期ミュンヘンの「芸術時代」 画家の都 シュトゥックという現象 文化闘争のイコン――ベックリン ハンス・トーマの「ドイツ」 第9章 「発端」としての世紀転換期 一九〇五年の「ドイツ芸術」論争 対立の構図 「美術におけるユダヤ人問題」 「美術の都」と日本人 おわりに――事件の顚末 あとがき 参考文献 図版一覧 索引 Author 前田 良三 Ryozo Maeda 1955年生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科修了(文学修士)。ドイツ・ボン大学Dr. phil. 東京大学助手、埼玉大学助教授、一橋大学助教授を経て1995年から立教大学文学部教授(ドイツ文学)。主要著作『可視性をめぐる闘争──戦間期ドイツの美的文化批判とメディア』(三元社 2013)、Mythen, Medien, Mediokritäten. Zur Formation der Wissenschaftskultur der Germanistik in Japan(Fink 2010), Transkulturalität. Identitäten in neuem Licht(編著iudicium 2012), Schriftlichkeit und Bildlichkeit. Visuelle Kulturen in Europa und Japan(共編著Fink 2007)。訳書 テオドール・アドルノ『文学ノート1・2』(共訳、みすず書房 2009)、マンフレート・シュナイダー『時空のゲヴァルト――宗教改革からプロスポーツまでをメディアから読む』(共訳、三元社 2001)、フリードリヒ・キットラー『キットラー対話 ルフトブリュッケ広場』(共訳、三元社 1999)ほか。
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食べたくなる本
¥2,970
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美味い料理、美味い酒には目がない気鋭の映画批評家が、料理本や料理エッセイを批評的に読む。食の素材、味、調理法、さらには食文化のあり方をめぐる、驚きと発見に満ちた考察。丸元淑生、有元葉子、辰巳芳子、高山なおみ、細川亜衣、ケンタロウ、小泉武夫、冷水希三子、奥田政行、勝見洋一……。その根底に流れるのは、「料理を作る・食べる・もてなす」ことに人生を捧げてきた人びとへのオマージュだ。「料理本批評」という、かつてないユニークな試みであり、もちろん本書も「食べたくなる本」である。 [出版社より] 著 者|三浦哲哉 出版社|みすず書房 定 価|2,700円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|328 ISBN|978-4-622-08781-6 初 版|2019年02月 Contents 第1章 いろいろなおいしいのあいだを漂う 1 元天使のコーヒー 2 料理再入門 3 ファッションフード 4 福島のスローフード 5 ジャンクフードの叙情 6 「ダメ女」と「一汁一菜」 第2章 作家論+α 7 記憶の扉を開く味——高山なおみ 8 引き算の料理——細川亜衣 9 レシピ本のなかのありえない数値 10 おいしいものは身体にいいか・1——有元葉子 11 おいしいものは身体にいいか・2——丸元淑生 12 どんぶりの味——ケンタロウ 13 おおらかな味——小泉武夫 14 組み合わせの楽しさ——冷水希三子と奥田政行 第3章 ちがいを感じ、考える 15 習慣の裏をかく——エル・ブリ 16 サンドイッチ考 17 まぼろしの味——勝見洋一 18 「嗜好品」と太古の味 19 pénultième=最後から二杯目の日本酒 20 ビオディナミと低線量被曝 あとがき Author 三浦 哲哉 Tetsuya Miura 青山学院大学文学部比較芸術学科准教授。映画批評・研究、表象文化論。1976年福島県郡山市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了。著書に『サスペンス映画史』(みすず書房、2012)『映画とは何か——フランス映画思想史』(筑摩選書、2014)『『ハッピーアワー』論』(羽鳥書店、2018)。共著に『ひきずる映画——ポスト・カタストロフ時代の想像力』(フィルムアート社、2011)『オーバー・ザー・シネマ 映画「超」討議』(石岡良治との共編著、フィルムアート社、2018)。訳書に『ジム・ジャームッシュ インタビューズ——映画監督ジム・ジャームッシュの歴史』(東邦出版 2006)。
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黒い皮膚・白い仮面[新装版]
¥4,070
「黒人の不幸は奴隷化されたということである。白人の不幸と非人間性はどこかで人間を殺してしまったということである。…黒人であるこの私の欲することはただひとつ。道具に人間を支配させてはならぬこと。人間による人間の、つまり他者による私の奴隷化が永遠に止むこと。…ニグロは存在しない。白人も同様に存在しない」 精神科医、同時にフランス領マルチニック島に生まれたひとりの黒人として、ファノンは最初の著作である本書で、植民地出身の黒人が白人社会で出会う現実と心理を、精神分析学的なアプローチを含め、さまざまな側面からえぐり出してみせた。 他からの疎外があるとき、内面においても自己を疎外する黒人に向けて、そこからの解放を訴えたファノンの言葉は、彼自身の生を出発点として実践のただ中から発せられたものであるゆえに、読む者の心に迫る。 [出版社より] 原 書|PEAU NOIRE, MASQUES BLANCS 著 者|フランツ・ファノン 訳 者|海老坂武・加藤晴久 出版社|みすず書房 定 価|3,700円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|328 ISBN|978-4-622-08950-6 初 版|2020年08月 Contents 序 (フランシス・ジャンソン) はじめに 1 黒人と言語 2 黒い皮膚の女と白人の男 3 黒い皮膚の男と白人の女 4 植民地原住民のいわゆる依存コンプレックスについて 5 黒人の生体験 6 ニグロと精神病理学 7 ニグロと認知 結論に代えて ファノンの認知 (フランシス・ジャンソン) 注 あとがきにかえて Author フランツ・ファノン Frantz Fanon 1925-61。カリブ海に浮かぶ西インド諸島(アンティル諸島)の南端近くのフランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、ドイツならびにこれと協力するフランスのヴィシー政権支配下の島から出て、ド・ゴールの「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。 1952年に本書『黒い皮膚・白い仮面』をスイユ社から刊行。1953年11月、フランス領アルジェリアのブリダ・ジョアンヴィルにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発し、ファノンの人生は決定的な転機をむかえる。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じるようになる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。 1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の生涯を貫いたその思想の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。 Translator 海老坂 武 Takeshi Ebisaka 1934年東京に生まれる。東京大学文学部仏文科卒業。同大学院(仏語・仏文学)博士課程修了。著書『フランツ・ファノン』(講談社、1981、みすず書房、2006)『戦後思想の模索』(みすず書房、1981)『雑種文化のアイデンティティ』(みすず書房、1986)『シングル・ライフ』(中央公論社、1986)『パリ ボナパルト街』(ちくま文庫、1990)『記憶よ、語れ』(筑摩書房、1995)『〈戦後〉が若かった頃』(岩波書店、2002)『かくも激しき希望の歳月』(岩波書店、2004)『サルトル』(岩波新書、2005)『戦争文化と愛国心』(みすず書房、2018)など。訳書 ニザン『番犬たち』(晶文社、1967)ボーヴォワール『別れの儀式』(共訳、人文書院、1989)サルトル『植民地の問題』(共訳、人文書院、2000)ほか多数。 加藤 晴久 Haruhisa Kato 1935年東京に生まれる。仏文学専攻。東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。著書『ブルデュー 闘う知識人』(講談社、2015)『《ル・モンド》から世界を読む』(藤原書店、2016)ほか。
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シネアスト宮崎駿 奇異なもののポエジー
¥3,960
「このジャンルのファンは彼のヴィジュアルな豊かさを讃え、評論家は彼のテーマの密度を誉めるが、彼が同時に、たぶん何にもまして真の映画演出家であるということを強調することがあまりにしばしば忘れられているのだ。 (…)登場人物たちが字義的意味でリアルではないとしても、彼らはやはりシーンの空間──デッサンによって創造されたものであろうと──のなかに住んでいるのであり、映画表現に特有の手段はやはり監督にとって原材料なのである。 本書においてアニメがフレーミングの階梯の変化、カメラの移動、画面の奥行きの作用、モンタージュや音声の作業などを伴った〈ほんとうの映画〉のように扱われていると知っても驚かないでいただきたい。それはずっと前から当然のことなのだ。彼の数多くの才能のなかでも間違いなくもっとも配慮されてこなかったシネアスト宮崎という側面を理解するため、こうした演出がどのように内密に物語の組織化に関与し、かくして作品を観る際の喜びに関与しているのかが分析されることになろう」 スタッフとして参加した『太陽の王子 ホルスの大冒険』『長靴をはいた猫』『どうぶつ宝島』から監督作品『ルパン三世 カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』まで。世界の映画史、アニメーション史をふまえつつ精緻な作品分析を積み重ねたモノグラフィ。 [出版社より] 原 書|HAYAO MIYAZAKI, CINÉASTE EN ANIMATION: Poésie de l’insolite 著 者|ステファヌ・ルルー 訳 者|岡村民夫 出版社|みすず書房 定 価|3,600円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|280 ISBN|978-4-622-08894-3 初 版|2020年10月 Contents 読者への覚え書き 謝辞 序 第1章 宮崎、喜劇の設計者 1 東映動画の『ホルス』後 2 場面設計者・宮崎 3 映画的なものと遊戯的なもの 4 場面に関するものとメカニカルなもの 5 宮崎、「肉体派の軽業師」 第2章 日常における冒険 1 想像的なものにおける具体的なもの a 簡素なイントロダクション/ b 天空の音と大地の……/ c 帆にはらまれる風/ d 大地にふれる足 2 自然的時間性 a 道具と人間/ b 動物と無名な人/ c 散歩の時間/ d うがたれたクライマックス 第3章 驚異における自然的なもの 1 観照的なものから奇異なものへ a 遺跡と人々/ b 自分の生を生きるクリーチャー 2 となりの奇異なもの a トトロの下描き/ b メイと(は)白兎/ c サツキ、アンチ・アリス 3 キキ、ポルコ、千尋…… a 都市のなかの豚/ b 旅の終わりに、想像的なもの 結論 付録 会見とディスカッション 「日本のヌーヴェル・イマージュ」フェスティバル 注 文献 西洋における(日本の)アニメーションとその他の著作、インターネットサイト 訳者あとがき Author ステファヌ・ルルー Stéphane Le Roux フランス・レンヌ市のリセ・ブレキニー「映画オーディオヴィジュアル」クラス教授。レンヌ第2大学講師。アニメーション映画研究者。2007年、レンヌ第2大学に提出した論文‟Scénographie et cinématographie du dessin animé: de Toei à Ghibli (1968-1988), le parti du réalisme de Isao Takahata et Hayao Miyazaki”により博士号取得。著書Isao Takahata, cinéaste en animation : modernité du dessin animé, 2010, Hayao Miyazaki, cinéaste en animation: poésie de l’insolite, 2011(本書)。 Translator 岡村 民夫 Tamio Okamura 1961年、横浜に生まれる。立教大学大学院文学研究科単位取得満期退学(フランス文学専攻)。法政大学国際文化学部教授。表象文化論。著書『旅するニーチェ リゾートの哲学』(白水社 2004)『イーハトーブ温泉学』(みすず書房 2008)『柳田国男のスイス――渡欧体験と一国民俗学』(森話社 2013)『立原道造――故郷を建てる詩人』(水声社 2018)、共著『映画史を学ぶクリティカル・ワーズ』(フィルムアート社 2003/ 増補版2013)『宮沢賢治 驚異の想像力』(朝文社 2008)『温泉の原風景』(岩田書院 2013)『燦然たるオブジェたち――小津安二郎のミクロコスモス』(花書院 2014)『国際都市ジュネーヴの歴史――宗教・思想・政治・経済』(昭和堂 2018)、訳書『デュラス、映画を語る』(みすず書房 2003)、共訳ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』(法政大学出版局 2006)ほか。
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感情史の始まり
¥6,930
SOLD OUT
感情とは、感情史とは何か。近年、「感情」にアクセントを置いて学問のあり方を見直す動向が高まっている。「感情心理学」「感情の社会学」「感情の政治学」云々。歴史学の分野では、かつてリュシアン・フェーヴルが感情研究を提唱していたが、21世紀に入ってようやくさまざまな事件の理解や歴史文書の読み方に「感情」という新たな視点が導入されるようになった。動物やヒューマノイド機械にも感情はあるのか、感情は私たちの身体の外側に由来するのか内側に存在するのか、そして、感情は歴史を有するのか、そうだとしたらどのような史料から読み取れるのか。 このような基本的な問いを軸に、本書は感情史研究の過去・現在・未来を概観する。なかでも本書の特徴は、感情をめぐる社会構築主義と普遍主義という二つの考え方に正面から立ち向かう点だ。人間の感情は、人類学者たちが示してきたように、時代と地域と文化でそれぞれ異なる社会構築主義的なものなのか、それとも、脳科学者はじめ生命科学の領域で言われるように人類共通の普遍的なものなのか。著者はその二つの見方を架橋しながら、感情のあり方のグランドセオリーを展開し、歴史学における感情の扱い方の手法とその重要性を説く。哲学から図像分析まで、ジャンルを超えて縦横に論じる著者の叙述はじつに刺激的だ。 日本でもようやく注目されてきた感情史についての最も定評ある基本書であり、新しい人文学の可能性をひらく書でもある。 [出版社より] 原 書|GESCHICHTE UND GEFÜHL 著 者|ヤン・プランパー 監訳者|森田直子 訳 者|小野寺拓也・平山昇・辻英史・山根徹也・西山暁義 出版社|みすず書房 定 価|6,300円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|608 ISBN|978-4-622-08953-7 初 版|2020年11月 Contents 序論 歴史と感情 1 感情とは何か 2 誰が感情を有するのか 3 感情はどこにあるのか 4 感情は歴史を有するのか 5 感情の歴史を書く際にいかなる史料を使えるのか 第一章 感情史の歴史 1 リュシアン・フェーヴルと感情 2 フェーヴル以前の感情史 3 フェーヴルの時代およびその後の感情史 4 感情史と9・11 5 バーバラ・H・ローゼンワインと感情の共同体 第二章 社会構築主義――人類学 1 感情の多様性 2 旅行記と初期の人類学における感情 3 人類学の古典における感情 4 1970年代における初期の感情人類学 イヌイットの感情 「過大認識された」感情と「過少認識された」感情 5 言語論的転回と社会構築主義 喜びのための首狩り 本物の感情を伝える媒体としての涙ではなく詩 社会構築主義の高み 6 ロザルド、アブー=ルゴド、ルッツ以外の社会構築主義 7 社会構築主義にもとづく感情の人類学――いくつかの暫定的結論 補説 I 社会学 8 1990年代 I――社会構築主義後の人類学による感情研究 補説 II 感情言語学 9 1990年代 II――社会構築主義と普遍主義との二元論の超克? 10 より新しい普遍主義的な感情人類学 第三章 普遍主義――生命科学 1 ポール・エクマンと基本感情 2 第三章の行程表 3 チャールズ・ダーウィンの『人および動物の表情について』(1872)――社会構築主義者と普遍主義者の戦場 4 感情心理学研究の始まり――気持ち、情念、心情変化がいかにして神学から心理学へと移り、その際に「感情」になったのかという問題 5 感情の実験室と実験室の感情――実験精神からの心理学的感情概念の誕生 6 いかにして社会的秩序の理念が脳の内部の秩序をも決定したのか 7 脳の感情的反応の探求 キャノン=バード説 パペッツの情動回路 大脳辺縁系 8 フロイトに欠けている感情理論 9 1960年代以降の感情心理学の流行 10 感情の統合的な認知‐生理学理論――シャクター‐シンガー・モデル 11 評価する感情――認知心理学と評価モデル 12 神経科学、fMRIスキャニング、およびその他の画像処理法 13 ジョセフ・ルドゥーと恐怖への二経路 14 アントニオ・R・ダマシオとソマティック・マーカー仮説 15 ジャコモ・リッツォラッティ、ヴィットーリオ・ガッレーゼ、マルコ・イアコボーニ――ミラーニューロンと社会的感情 16 小人の肩の上で――人文・社会科学にとっての「トロイの木馬」としての神経科学 17 万国のアフェクタリアンよ、団結せよ! ハート、ネグリらに代表される神経科学 18 神経科学からの借用について――暫定的結論 19 あらゆる分断線を越えて――批判的神経科学との真の協働可能性 機能特化、あるいは機能分化としても知られるもの 神経細胞の可塑性 社会神経科学 第四章 感情史の展望 1 『感情の航海術』――ウィリアム・M・レディによる社会構築主義と普遍主義の克服の試み 2 感情実践 動員的感情実践 命名的感情実践 コミュニケーション的感情実践 調整的感情実践 3 ニューロヒストリー 4 感情史の射程 政治史、社会運動、感情 経済史と感情 法制史と感情 メディア史と感情 オーラル・ヒストリー、記憶、感情 感情的存在としての歴史家 5 展望 結論 謝辞 訳者あとがき 用語解説 原注 主要文献目録 索引 Author ヤン・プランパー Jan Plamper 1970年生まれのドイツの歴史家。ギムナジウム卒業後に渡米し、1992年にブランダイス大学卒業、2001年にカリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得。その後ドイツに戻り、テュービンゲン大学やベルリンのマックス・プランク人間形成研究所で教育や研究に従事。2012年からロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの歴史学教授、2018年からはケンブリッジ大学出版会の初歩叢書(エレメンツ・シリーズ)「感情と感覚の歴史」の編集主幹も務める。単著には、博士論文をもとにした英語の『スターリン崇拝─―権力の魔力についての考察』(2012)、ドイツ語の新著『新しい私たち─―なぜ移民はその一部なのか ドイツ人のもう一つの歴史』(2019)、編著書には、英語による『恐怖─―学問分野を超えて』(2012)ほか、ドイツ語、ロシア語によるものなど。既存の邦訳に「恐怖─―20世紀初頭のロシア軍事心理学における兵士と感情」(西山暁義訳『思想』1132号、2018年)。 Translator 森田 直子 Naoko Morita 1971年岡山県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学、ドイツ・ビーレフェルト大学歴史・哲学・神学部で博士号取得。立正大学文学部准教授。専門はドイツ近代史。著書にWie wurde man Bürger? Geschichte des Stadtbürgerrechts in Preuβen im 19. Jahrhundert (Frankfurt am Main et. al: Peter Lang, 2008)、論文に「メディアにみる近代ドイツの決闘試合」(『立正大学文学部論叢』142号、2019年)「感情史の現在」(『思想』1132号、2018年)「感情史を考える」(『史学雑誌』第125編第3号、2016)ほか。訳書にヨアヒム・ラートカウ『自然と権力─―環境の世界史』『ドイツ反原発運動小史─―原子力産業・核エネルギー・公共性』(ともに海老根剛との共訳、みすず書房、2012)など。本書では監訳以外に「序論(4, 5)、第三章(1の前半)、用語解説」の翻訳を担当した。
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リターンズ 二十一世紀に先住民になること
¥5,940
文化人類学の批判的歴史家が『文化の窮状』『ルーツ』に続いて放つ待望の論集。滅びるどころか世界各地で可視化する「先住民」運動の本質を、節合・パフォーマンス・翻訳をキーワードに理論的に分析。かつて「最後の野生インディアン」と言われた「イシ」の文化的再生を語り、ニューカレドニアとアラスカの先住民による新たなアイデンティティ戦略を、民族誌的・歴史的リアリズムで描出する進行形の書物。 [出版社より] 著 者|ジェイムズ・クリフォード 訳 者|星埜守之 出版社|みすず書房 定 価|5,400円+税 判 型|A5判/上製 頁 数|408 ISBN|978-4-622-08962-9 発 行|2020年12月 Contents プロローグ 第一部 1 複数の歴史の間で 先住民性(Indigenitude) 複数の他なる歴史 1 ポストモダニティを脱節合すること 複数の他なる歴史 2 民族誌的リアリズム 複数の他なる歴史 3 節合、パフォーマンス、翻訳 2 先住民の複数の節合 3 先住民経験の多様性 第二部 4 イシの物語 恐怖と癒し 帰ってきたイシ イシの変奏 ユートピア 第三部 5 ハウオファの希望 6 幾つもの道を見ながら アイデンティティの政治経済 『両方の道を見ながら』 先行企画 相互作用――アラスカ先住民文化遺産センター 出現と節合 文化遺産の諸関係、変わりゆく天候 共同作業の地平 7 第二の生――仮面の帰還 帰還の複数の経路 第二の生(準理論的間奏) 仮面を返還する 三冊のカタログ 翻訳で失われたものと見いだされたもの 呼びかけそして/あるいは節合(理論的間奏) 縺れ合った複数の行為主体性 複数のリンク(結びつき) エピローグ 初出一覧 謝辞 訳者あとがき 参照文献 索引 Author ジェイムズ・クリフォード James Clifford 1945年、アメリカ合衆国ニューヨーク市生まれ。1978年から2010年までカリフォルニア大学サンタクルーズ校の「意識の歴史プログラム」教授。現在は同大学名誉教授。1986年、ジョージ・マーカスとの共編著『文化を書く』(紀伊國屋書店)により、人類学の批判的歴史家として一躍有名になる。2010年、2018年に来日。著書に論集『文化の窮状』(人文書院)『ルーツ』(月曜社)、対談集『人類学の周縁から』(人文書院)など。 Translator 星埜 守之 Moriyuki Hoshino 1958年、アメリカ合衆国ペンシルヴェニア州生まれ。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。20世紀フランス文学、フランス語圏文学。著書に『ジャン=ピエール・デュプレ――黒い太陽』(水声社)など。訳書に、シャモワゾー『テキサコ』(平凡社、渋沢・クローデル賞フランス大使館・エールフランス特別賞)、マキーヌ『フランスの遺言書』(水声社、小西国際交流財団第8回日仏翻訳文学賞)、リテル『慈しみの女神たち』(共訳、集英社、日本翻訳出版文化賞)、クリステヴァ『斬首の光景』(共訳、みすず書房)、クリフォード『文化の窮状』(共訳)『人類学の周縁から――対談集』(ともに人文書院)など。
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懐古する想像力 イングランドの批評と歴史
¥5,720
「文芸批評を他のあらゆる学問研究から切り離された分野として扱うことはできない。通史、哲学、神学、経済学、心理学に注意を払わなければならないのは、これらのすべてに文芸批評が融合しているからである」(T. S. E.) 「文学──もっと正確に言えば〈英文学〉の中核を形成すると従来から考えられてきた一連の作家たち──は長きにわたってイギリスにおける国民的な自己定義の中心でありつづけてきた。しかし、20世紀のはじめの数十年に、国民文学の名作の評価と、国の政治体制の特徴とその軌跡についての理解とのあいだの緊密な、妄信的とさえ言いうるような結びつきがさまざまな形で分断させられたのである。文芸批評という概念がいっそう強調されるようになっていった」(S. C.) 『聖なる森』から『長い革命』、T・S・エリオットからリーヴィス夫妻、ウィリアム・エンプソン、リチャード・ホガート、レイモンド・ウィリアムズまで。歴史学と文学のはざまで同時代社会を彩る歴史認識、自己了解への視座をもたらしてきた20世紀文芸批評の展開をたどる。2017年度オックスフォード大学フォード記念講演。 [出版社より] 原 書|THE NOSTALGIC IMAGINATION: History in English Criticism 著 者|ステファン・コリーニ 訳 者|近藤康裕 出版社|みすず書房 定 価|5,200円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|400 ISBN|978-4-622-08942-1 初 版|2020年11月 Contents まえがき 序論 第1章 ホイッグ史観とイングランドの精神 第2章 人類史における現在の相を精査する 第3章 「背景」としての科学と資本主義 第4章 合理主義、キリスト教、曖昧 第5章 「読者層」の歴史 第6章 長い産業革命 第7章 文化史としての文学史 後記 原注 訳者あとがき Author ステファン・コリーニ Stefan Collini 1947年生まれ。ケンブリッジ大学ジーザス・コレッジで博士号取得。1994-2015年、ケンブリッジ大学教授(インテレクチュアル・ヒストリーおよび英文学)。著書Liberalism and Sociology: L. T. Hobhouse and Political Argument in England 1880-1914, Cambridge University Press, 1979, Arnold, Oxford University Press, 1988, Public Moralists: Political Thought and Intellectual Life in Britain 1850-1930, Clarendon Press, 1991, English Pasts: Essays in History and Culture, Oxford University Press, 1999, Absent Minds: Intellectuals in Britain, Oxford University Press, 2006, Common Reading: Critics, Historians, Publics, Oxford University Press, 2008, What Are Universities For, Penguin, 2012, Common Writing: Essays on Literary Culture and Public Debate, Oxford University Press, 2016, Speaking of Universities, Verso, 2017ほか。編著多数。邦訳にD・ウィンチ、J・バロウとの共著『かの高貴なる政治の科学――19世紀知性史研究』(ミネルヴァ書房 2005)、C・P・スノー『二つの文化と科学革命』解説(みすず書房 2011)などがある。 Translator 近藤 康裕 Yasuhiro Kondo 1980年生まれ。一橋大学言語社会研究科博士後期課程修了。慶應義塾大学法学部准教授。イギリス文学・文化研究。著書『読むことの系譜学――ロレンス、ウィリアムズ、レッシング、ファウルズ』(港の人 2014)、共著『愛と戦いのイギリス文化史 1951-2010年』(慶應義塾大学出版会2011)『文化と社会を読む批評キーワード辞典』(研究社 2013)、訳書トッド『ザ・ピープル――イギリス労働者階級の盛衰』(みすず書房 2016)、共訳ジャット『失われた二〇世紀』(NTT出版 2011)ウィリアムズ『共通文化にむけて』(みすず書房 2013)ほか。
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明るい部屋 写真についての覚書[新装版]
¥3,080
《狂気をとるか分別か? 「写真」はそのいずれをも選ぶことができる。「写真」のレアリスムが、美的ないし経験的な習慣(たとえば、美容院や歯医者のところで雑誌のぺージをめくること)によって弱められ、相対的なレアリスムにとどまるとき、「写真」は分別のあるものとなる。そのレアリスムが、絶対的な、始源的なレアリスムとなって、愛と恐れに満ちた意識に「時間」の原義そのものをよみがえらせるなら、「写真」は狂気となる》(ロラン・バルト) 本書は、現象学的な方法によって、写真の本質・ノエマ(《それはかつてあった》)を明証しようとした写真論である。細部=プンクトゥムを注視しつつ、写真の核心に迫ってゆくバルトの追究にはまことにスリリングなものがある。 本書はまた、亡き母に捧げられたレクイエムともいえるだろう。私事について語ること少なかったパルト、その彼がかくも直接的に、母の喪の悲しみを語るとは! 本書は明らかに、著者のイメージ論の総決算であると同時に、バルトの『失われた時を求めて』となっている。《『明るい部屋』の写真論の中心には、光り輝く核としての母の写真の物語が据えられている》(J・デリダ) [出版社より] 原 書|La Chambre Craire 著 者|ロラン・バルト 訳 者|花輪光 出版社|みすず書房 定 価|2,800円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|168 ISBN|978-4-622-04905-0 初 版|1997年06月 Contents I 1 「写真」の特殊性 2 分類しがたい「写真」 3 出発点としての感動 4 「撮影者」、「幻像」、「観客」 5 撮影される人 6 「観客」——その無秩序な好み 7 冒険としての「写真] 8 鷹揚な現象学 9 二重性 10 「ストゥディウム」と「プンクトゥム」 11 「ストゥディウム」 12 知らせること 13 描くこと 14 不意にとらえること 15 意味すること 16 欲望をかきたてること 17 単一な「写真」 18 「ストゥディウム」と「プンクトゥム」の共存 19 「プンクトゥム」——部分的特徴 20 無意志的特徴 21 悟り 22 事後と沈黙 23 見えない場 24 前言取り消し II 25 《ある晩……》 26 分け隔てるもの、「歴史」 27 再認・認識すること 28 「温室の写真」 29 少女 30 アリアドネ 31 「家族」、「母」 32 《それはかつてあった》 33 ポーズ 34 光線、色彩 35 「驚き」 36 確実性の証明 37 停滞 38 平板な死 39 プンクトゥムとしての「時間」 40 「私的なもの」/「公的なもの」 41 子細に検討する 42 似ているということ 43 家系 44 明るい部屋 45 《雰囲気》 46 「まなざし」 47 「狂気」、「憐れみ」 48 飼い馴らされた「写真」 訳者あとがき 図版出典一覧 略語一覧 事項索引 人名索引 Author ロラン・バルト Roland Barthes 1915年フランスのシェルブールに生まれ、幼年時代をスペイン国境に近いバイヨンヌに過す。パリ大学で古代ギリシア文学を学び、学生の古代劇グループを組織。結核のため1941年から5年間、スイスで療養生活を送りつつ、初めて文芸批評を執筆する。戦後はブカレストとアレクサンドリアでフランス語の講師、その間に文学研究の方法としての言語学に着目、帰国後、国立科学研究センター研究員、1954年に最初の成果『零度のエクリチュール』(邦訳、みすす書房、1971)を発表。その後、エコール・プラティック・デ・オート・ゼチュードの〈マス・コミュニケイション研究センター〉(略称セクマ)教授を経て、1977年からコレージュ・ド・フランス教授。1980年歿。邦訳されている著書は他に『エッセ・クリティック』(晶文社)『記号の国』『現代社会の神話』『ミシュレ』『物語の構造分析』『モードの体系』『S/Z』『旧修辞学』『サド、フーリエ、ロヨラ』『新=批評的エッセー』『彼自身によるロラン・バルト』『恋愛のディスクール・断章』『テクストの快楽』『文学の記号学』『第三の意味』『バルト〈味覚の生理学〉を読む』(以上、みすず書房)等がある。 Translator 花輪 光 Hikaru Hanawa 1932年山梨県に生れる。1955年東京教育大学文学部仏文科卒業。1959年同大学大学院博士課程中退。元筑波大学文芸・言語学系教授。1999年歿。著書『ロラン・バルト』(1985、みすず書房)。訳書 B.バンゴー『カミュの《異邦人》』、P.コニー『自然主義』、R.バルト『新=批評的エッセー』『物語の構造分析』『文学の記号学』『言語のざわめき』『記号学の冒険』(1977、1979、1981、1987、1988、みすず書房)R.ヤーコプソン『音と意味についての六章』(1977、みすず書房)、E.バンヴェニスト『一般言語学の諸問題』(共訳、1983、みすず書房)、R.ヤーコブソン他『詩の記号学のために』(編著・共訳、1985、書肆風の薔薇)、G.ジュネット『物語のディスクール』(共訳、1985、書肆風の薔薇)、カルヴェ『ロラン・バルト伝』(1993、みすず書房)ほか。
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ホロコーストとアメリカ
¥5,060
SOLD OUT
ナチス・ドイツによるホロコーストはユダヤ人の生命を奪っただけでなく、宗教や文化などあらゆる「ユダヤ的なもの」を破壊した。その結果、数千のユダヤ人コミュニティが消滅し、1億冊以上の書籍が失われた。ユダヤ人の犠牲は600万にのぼり、これはヨーロッパ大陸のユダヤ人人口全体の実に72パーセント以上にあたる。 しかし、国際社会は絶望の淵に追い込まれたユダヤ人の運命に非情であった。ユダヤ人の祖国パレスチナを委任統治するイギリスは、彼らの入国を厳しく制限した。アメリカは制限的移民法を改正し、門戸を広く開放するつもりはなかった。この両国だけでも政策を見直していれば、多数の人命が失われずにすんだ。 国家が頼りにならなければ、自分たちで不幸な難民を救うしかない。19世紀以来、欧米諸国にはユダヤ人の救援組織がつぎつぎと誕生し、国際的な絆で結ばれていた。そのひとつ、第一次世界大戦を機に発足したアメリカ・ユダヤ人合同配分委員会(「ジョイント」)が、ナチス支配下で苦悩する同胞を救うため、すべての組織、資金、人材を動員する。そのスタッフは戦乱の地に派遣され、身の危険を顧みずに救済活動をおこなった。しかし、彼らの行く手には国益と官僚主義の壁が立ちはだかる。 本書は、危機の時代における「ジョイント」と、そのひとりの女性ソーシャルワーカーの活動に焦点をあてながら、ユダヤ難民の辿ってきた道のりを詳細に跡づける。 [出版社より] 著 者|丸山直起 出版社|みすず書房 定 価|4,600円+税 判 型|四六判/上製 頁 数|448 ISBN|978-4-622-08734-2 初 版|2018年12月 Contents 序章 ホロコーストへの道 一 ホロコーストとは何か 二 最終解決へ 三 本書の視点 第1章 難民はアメリカをめざす 一 アメリカの移民問題 二 制限的移民法の成立 三 ユダヤ難民とアメリカ 四 ユダヤ系団体の救援活動 第2章 危機の時代とアメリカのユダヤ人 一 ジョイント ニ ナチ政権の登場とアメリカのユダヤ人 三 マーゴリス家の人びと 四 アメリカのマーゴリス 第3章 ドイツの反ユダヤ政策とアメリカ政府の対応 一 エヴィアン会議 二 政府間難民委員会とドイツ側の交渉 三 ユダヤ人はどこへ向かうのか 四 アメリカ入国の壁 第4章 セントルイス号の悲劇 一 キューバ 二 悲劇の豪華客船 三 交渉決裂 四 新世界と旧世界 第5章 戦時下のジョイント 一 第二次世界大戦の勃発 二 中国のユダヤ難民 三 マーゴリスの上海派遣 四 開戦と上海のユダヤ難民 五 指定地区 第6章 解放の年 一 解放 二 活動再開 三 大戦後のジョイントの救援活動 四 イスラエルへ 終章 なぜアウシュヴィッツは爆撃されなかったのか 一 アウシュヴィッツ ニ アメリカ政府とユダヤ人社会 三 ローズヴェルト大統領の評価 四 ベルリン、1998年 註記 あとがき 図版出典一覧 略語一覧 事項索引 人名索引 Author 丸山 直起 Naoki Maruyama 1942年、長野県生まれ。1965年、早稲田大学政経学部卒業、1973年、一橋大学大学院単位取得退学。小樽商科大学、国際大学、明治学院大学で教える。明治学院大学名誉教授。法学博士(一橋大学)。専門は国際政治学・外交史。主な著書に『太平洋戦争と上海のユダヤ難民』(法政大学出版局、2005)『ポスト冷戦期の国際政治』(共編、有信堂、1993)『アメリカのユダヤ人社会』(ジャパンタイムズ社、1990)『国際政治ハンドブック』(共編、有信堂、1984)など。