「黒人の不幸は奴隷化されたということである。白人の不幸と非人間性はどこかで人間を殺してしまったということである。…黒人であるこの私の欲することはただひとつ。道具に人間を支配させてはならぬこと。人間による人間の、つまり他者による私の奴隷化が永遠に止むこと。…ニグロは存在しない。白人も同様に存在しない」
精神科医、同時にフランス領マルチニック島に生まれたひとりの黒人として、ファノンは最初の著作である本書で、植民地出身の黒人が白人社会で出会う現実と心理を、精神分析学的なアプローチを含め、さまざまな側面からえぐり出してみせた。
他からの疎外があるとき、内面においても自己を疎外する黒人に向けて、そこからの解放を訴えたファノンの言葉は、彼自身の生を出発点として実践のただ中から発せられたものであるゆえに、読む者の心に迫る。
[出版社より]
原 書|PEAU NOIRE, MASQUES BLANCS
著 者|フランツ・ファノン
訳 者|海老坂武・加藤晴久
出版社|みすず書房
定 価|3,700円+税
判 型|四六判/上製
頁 数|328
ISBN|978-4-622-08950-6
初 版|2020年08月
Contents
序 (フランシス・ジャンソン)
はじめに
1 黒人と言語
2 黒い皮膚の女と白人の男
3 黒い皮膚の男と白人の女
4 植民地原住民のいわゆる依存コンプレックスについて
5 黒人の生体験
6 ニグロと精神病理学
7 ニグロと認知
結論に代えて
ファノンの認知 (フランシス・ジャンソン)
注
あとがきにかえて
Author
フランツ・ファノン Frantz Fanon
1925-61。カリブ海に浮かぶ西インド諸島(アンティル諸島)の南端近くのフランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、ドイツならびにこれと協力するフランスのヴィシー政権支配下の島から出て、ド・ゴールの「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。
1952年に本書『黒い皮膚・白い仮面』をスイユ社から刊行。1953年11月、フランス領アルジェリアのブリダ・ジョアンヴィルにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発し、ファノンの人生は決定的な転機をむかえる。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じるようになる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。
1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の生涯を貫いたその思想の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。
Translator
海老坂 武 Takeshi Ebisaka
1934年東京に生まれる。東京大学文学部仏文科卒業。同大学院(仏語・仏文学)博士課程修了。著書『フランツ・ファノン』(講談社、1981、みすず書房、2006)『戦後思想の模索』(みすず書房、1981)『雑種文化のアイデンティティ』(みすず書房、1986)『シングル・ライフ』(中央公論社、1986)『パリ ボナパルト街』(ちくま文庫、1990)『記憶よ、語れ』(筑摩書房、1995)『〈戦後〉が若かった頃』(岩波書店、2002)『かくも激しき希望の歳月』(岩波書店、2004)『サルトル』(岩波新書、2005)『戦争文化と愛国心』(みすず書房、2018)など。訳書 ニザン『番犬たち』(晶文社、1967)ボーヴォワール『別れの儀式』(共訳、人文書院、1989)サルトル『植民地の問題』(共訳、人文書院、2000)ほか多数。
加藤 晴久 Haruhisa Kato
1935年東京に生まれる。仏文学専攻。東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。著書『ブルデュー 闘う知識人』(講談社、2015)『《ル・モンド》から世界を読む』(藤原書店、2016)ほか。
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