人々を政治的・社会的・文化的に統合し均質化する近代の国民国家は、非合理な他者の一つとして〈怪異〉を排除した。だが〈怪異〉はそのような近代社会と緊張関係をはらみながら様々に表象され、ナショナリズムにときに対抗し、ときに加担してきた。
戦前・戦後の文学作品、怪談、史跡、天皇制、二・二六事件、マルクス主義と陰謀論、オカルトブーム――〈怪異〉にまつわる戦前・戦後の小説や史料、事件、社会的な現象を取り上げて、「戦争」「政治」「モダニズム」という3つの視点からナショナリズムとの関係性を読み解く。
〈怪異〉とナショナリズムが乱反射しながら共存した近代日本の時代性を浮き彫りにして、両者の奇妙な関係を多面的に照らし出す。
[出版社より]
監 修|怪異怪談研究会
編著者|茂木謙之介・小松史生子・副田賢二・松下浩幸
出版社|青弓社
定 価|3,800円+税
判 型|A5判/並製
頁 数|376
ISBN|978-4-7872-9262-9
初 版|2021年11月
Contents
はじめに 茂木謙之介
第1部 戦争と教化
第1章 戦意高揚物語への接近と離反――泉鏡花「海戦の余波」における〈人間ならざるものたち〉の役割 鈴木 彩
1 典型的な戦意高揚物語のなかで
2 「海は日本の友達」の妥当性
3 千代太が知らない海の姿
第2章 出征する〈異類〉と〈異端〉のナショナリズム――「軍隊狸」を中心に 乾 英治郎
1 「軍隊狸」と〈不気味なもの〉
2 赤い〈狸〉と白い〈神〉
3 不死身の〈狸〉と血を流す〈神〉
第3章 恋する死者たちの〈戦後〉――『英霊の聲』と文学的なるもの 松下浩幸
1 天皇への「恋」
2 「神」と「人間(ルビ:ひと)」
3 加藤典洋と三島由紀夫
4 主体と〈文学〉的なるもの
第4章 二十世紀前半の史蹟保存事業と史蹟の怪異 齋藤智志
1 近世期における史蹟と怪異
2 近代の史蹟保存事業と怪異の扱われ方
3 怪異の湧出・共存
[コラム]亡霊となる戦死者 川村邦光
第2部 政治と革命
第5章 怪異と迷信のフォークロア――佐藤春夫「魔鳥」「女誡扇綺譚」における〈植民地的不気味なもの〉 堀井一摩
1 台湾原住民のフォークロア――「魔鳥」
2 台湾漢民族のフォークロア――「女誡扇綺譚」
第6章 テロルの女たちはなぜ描かれたのか――宮崎夢柳「鬼啾啾」の虚無党表象をめぐる一考察 倉田容子
1 虚無党の表象と「残虐趣味」
2 「鬼啾啾」におけるイデオロギーの揺らぎ
3 秩序の揺らぎと「おぞましきもの」
第7章 〈怪異〉からみる二・二六事件――北一輝と対馬勝雄におけるオカルト的想像力 茂木謙之介/大道晴香
1 二・二六事件をめぐるオカルト的想像力と『霊告日記』の射程
2 陸上自衛隊弘前駐屯地「対馬勝雄関係資料」と対馬の思想と行動
3 対馬の神霊観
4 「霊界通信」の源泉①――郷里の巫俗
5 「霊界通信」の源泉②――霊術への関心
第8章 マルクス主義的陰謀論の諸相――デリダ・ジェイムソン・太田竜 栗田英彦
1 社会科学と陰謀論――近年の研究動向の概観
2 デリダとアイク
3 ジェイムソンとコールマン
4 太田竜における陰謀論と終末論
第9章 井上円了の妖怪学と天皇神話 井関大介
1 『妖怪学講義』における天皇神話
2 円了の倫理学と日本主義
3 「術」と「方便」の思想
[コラム]戦争と妖怪的なるもの、三題 成田龍一
第3部 合理化とモダニズム
第10章 大佛次郎「銀簪」と近代的怪談――山田風太郎創作メモ「小説腹案集」より「雪女」の記載を手がかりに 谷口 基
1 風太郎の初期傑作「雪女」について
2 「小説腹案集」五九の「雪女」について
3 若き風太郎の怪談観と大佛次郎の「銀簪」
4 「近代的怪談」としての「銀簪」
5 「銀簪」初出テクストから削除されたもの/残されたもの
第11章 中井英夫「虚無への供物」考――〈戦後〉という怪談、中井英夫から寺山修司へ 小松史生子
1 「虚無への供物」と二つの〈戦後〉
2 「お化けの正体」――天皇制と慰霊
3 虚言の後継者――中井英夫から寺山修司へ
第12章 浮遊する「墳墓」と永続性のゆくえ――細野雲外『不滅の墳墓』のナショナリズムと〈怪異〉 副田賢二
1 近代日本における「両墓制」とモニュメント意識の変容
2 散乱する「無縁墓」とその想像力
3 「不滅の墳墓」構想の内実とその背景
4 「墳墓」暴きの〈怪異〉――露出する「白骨」と土地の記憶
5 ページェントとしての「不滅の墳墓」――その「民衆」観と伊藤彦造
第13章 “オカルト天皇(制)”論序説――一九八〇年代雑誌「ムー」の分析から 茂木謙之介
1 「ムー」の編集戦略
2 超古代史言説と天皇
3 天皇をめぐるオカルト的想像力
[コラム]新宗教における怪異とナショナリズム――初期霊友会の歴史観と日本の位置 島薗 進
おわりに 茂木謙之介
Author
怪異怪談研究会
2012年に発足。近代に生じた文化規範の劇的な変化を意識しながら、江戸時代から近現代における怪異へのまなざし、怪談に集約された物語の内実を明らかにすることを目的とする。16年、研究会の中間的な成果報告としてシリーズ『怪異の時空』全3巻(青弓社)を刊行。18年、清水潤『鏡花と妖怪』(青弓社)を編纂。
茂木 謙之介 Kennosuke Motegi
1985年、埼玉県生まれ。東北大学大学院文学研究科准教授。専攻は表象文化論、日本近代文化史。著書に『表象としての皇族』(吉川弘文館)、『表象天皇制論講義』(白澤社)、編著に『怪異とは誰か』(青弓社)、共編著に『遠隔でつくる人文社会学知』(雷音学術出版)など。
小松 史生子 Shoko Komatsu
1972年、東京都生まれ。金城学院大学文学部教授。専攻は日本近現代文学・文化、比較文学・文化。著書に『探偵小説のペルソナ 奇想と異常心理の言語態』(双文社出版)、編著に『東海の異才・奇人列伝』(風媒社)、共著に『女学生とジェンダー』(笠間書院)など。
副田 賢二 Kenji Soeda
1969年、佐賀県生まれ。防衛大学校人間文化学科教授。専攻は日本近代文学、雑誌メディア研究。著書に『〈獄中〉の文学史』(笠間書院)、共著に『怪異とは誰か』(青弓社)、論文に「戦争テクノロジーとしての「防空」空間と文学」(「日本近代文学」第101集)など。
松下 浩幸 Hiroyuki Matsushita
1960年、大阪府生まれ。明治大学農学部教授。専攻は日本近現代文学。著書に『夏目漱石 Xなる人生』(NHK出版)、共著に『怪異とは誰か』(青弓社)、『『倫敦塔』論集 漱石のみた風景』(和泉書院)など。
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