SOLD OUT
2016年におこなわれたアメリカ合衆国大統領選挙やイギリスでのEU離脱を問う国民投票。ポピュリズムの台頭、あるいはリベラリズムの敗北ともいわれる状況に対して、あなたと私は「勝利(Victory)」をどのように捉え、そこから何を思い描けるだろうか。
「勝利と芸術生産」は、「勝利」を掲げることで逆説的に「敗北」を考え、「勝利-敗北」という構造そのものを問うことをテーマとしている。例えば日本での「終戦記念日」が、他の国では「解放記念日」や「対日戦勝記念日」と呼ばれ、背景となる意味も制定された日付も異なるように、「勝利(Victory)」とは、ある一面では特定の社会や思想が抱く正しさの終着点であり、別の側面では敗者を生み、その結果として弱者や貧困をはじめとするさまざまな問題を切り捨ててしまう状況にもつながる。そして、それは現在見えていないだけで、アートが抱えるリベラリズムやポリティカル・コレクトネスが持つ正しさや公平性においても同様であるかもしれない。勝利に伴う正義の対には敗者の姿があり、誰かに勝とうとすることは、負ける誰かを生み出すことにもなる。私たちはそうした矛盾を感じるからこそ、今日ではむしろ「勝利」に付随する盲目さや、自らの居心地の悪さを感覚的に避けようとしているのではないだろうか。
芸術生産を通して、私たちは「勝利」と、逆説としての「敗北」、そして「勝利-敗北」という構造そのものに対して、どのように向き合うことができるだろうか? 当然そこには、勝つか負けるかという二択ではなく、旧来の闘争や衝突から「逃げる」という選択肢もある。あるいは社会の中で身を翻し、現実に起こる日々の苦難に奔走されることなく、自分たちの生活における「よりよく生きる」ことを、「勝利-敗北」の構造そのものから遊離した姿として定義付けることができるかもしれない。では、その遊離した姿とは、一体何であろうか?ライフハック的な営為を経ることで、果たして「勝利-敗北」の構造から逃れることができるのだろうか?既存の価値基準に自らを委ねることなく、オルタナティヴを探すことで、勝利の意味を実践として書き換えていく可能性はあるのだろうか?
何を「勝利」として捉えるのかは、自身の価値観を問い直すことを迫るだろう。そして、その立ち位置から、勝利と敗北、両者の未来を想像することは、いまの時代の変化を考察するひとつの方法となるのではないだろうか。そのことを暫定的に信じることの試みとして今号を発刊する。
[編集部より]
企画・編集|+journal
判 型|D4タブロイド判
頁 数|24
価 格|500円+税
ISBN|978-4-908323-05-6
初 版|2018年3月
Contents
吉濱 翔 YOSHIHAMA Syo アーティスト
工藤春香 KUDO Haruka アーティスト
白川昌生 SHIRAKAWA Yoshio 美術家
杉田 敦 SUGITA Atsushi 美術批評
播磨みどり HARIMA Midori アーティスト
深澤孝史 FUKASAWA Takafumi 美術家
大槻英世 OHTSUKI Hideyo アーティスト
松井 周 MATSUI Syu 劇作家, 演出家, 俳優, サンプル主宰
ケッセルスクラマー KesselsKramer クリエイティブエージェンシー
エイドリアン・ファベル Adrian FAVELL リーズ大学 社会学・社会理論 学科長
高橋夏菜 TAKAHASHI Kana レビューカフェ
桃山 邑 MOMOYAMA U 水族館劇場
碓井ゆい USUI Yui アーティスト
藤原ちから FUJIWARA Chikara 批評家, BricolaQ主宰
河野聡子+山田亮太+佐次田 哲/
沼下桂子+原田 晋 TOLTA / +journal ヴァーバル・アート・ユニット / アート批評誌
佐々木 健 SASAKI Ken アーティスト
倉茂なつ子 KURASHIGE Natsuko ヨコハマトリエンナーレ2017 キュレトリアル・スタッフ
パウロ・ロペス・グラッサ Paulo Lopes GRACA 外交官, ときどき作家
森村泰昌 美術家
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